最も所得が低い階層が支払う税や社会保険料の負担は?
では、税金や社会保険料といった負担はどうか。まず、政府に支払う税金や社会保険料(対、家計の可処分所得)の平均は、オーストラリア23.4%、フランス26%、デンマーク52.5%、日本19.7%、アメリカ25.6%となっており、日本の負担は全体でみると、オーストラリアやフランスだけでなく、アメリカよりも低い。このほかにも現物給付などもあるため、これは日本財政が赤字で政府支出を賄っている姿を表す。
しかも、税負担等の総額のうち所得の最も低い階層が負担している割合は、オーストラリア0.8%、フランス5.6%、デンマーク6.1%、日本6%、アメリカ1.6%である。
このため、所得が最も低い階層が負担する税負担等(対、家計の可処分所得)は、オーストラリア0.2%、フランス1.5%、デンマーク3.2%、日本1.2%、アメリカ0.4%となっており、日本で所得が最も低い階層が負担する税負担等は、福祉が手厚いフランス以上の負担となっている。だが、所得が最も低い階層が受け取っている現金給付(対、家計の可処分所得)は、フランス5.3%にもかかわらず、日本3.1%という状況である。
非効率な再分配
その結果、ネットの再分配(=現金給付-税金や社会保険料といった負担)で評価すると、所得が最も低い階層への再分配(対、家計の可処分所得)は、オーストラリア5.8%、フランス3.9%、デンマーク6%、日本2%、アメリカ1.9%となってしまう。
すなわち、この数値は、日本の再分配はアメリカ並みしかなく、再分配政策のターゲットが中・高所得階層にも大幅に拡大しており、非効率な再分配を行っている可能性が読み取れる。これが、高所得層のみでなく、低所得層においても増税に反対が多い理由のひとつではないか。
高齢者に手厚い社会保障を、子育て支援の拡充や保育などの無償化を行い、全世代型社会保障に転換しようという動きもあるが、再分配政策はどうあるべきかの議論も不可欠であり、子育て支援や年金・医療・介護などの国庫負担のあり方を含め、本当に困っている人をどう救済するのか、限られた財源の使い方について、その哲学を改めて再検討する必要があろう。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)