KKRは傘下の投資ファンドを通じてTOB(株式公開買い付け)を行い、日産が保有している41%のカルソニック株式を含めた全株を取得する。買付価格は1株当たり1860円で、全株取得した場合、買収総額は4982億円になる計算だった。TOB公表前日までの、過去6カ月平均株価(923円)に、およそ約2倍のプレミアムを上乗せという破格の高値買収になるはずだった。
TOBの成立を前提に、カルソニックは従来、1株当たり7円50銭としていた2017年3月期の期末配当を無配とし、1株当たり570円の特別配当を実施すると発表した。配当金の総額は1500億円に達する。
これを踏まえてKKRは、今年2月22日~3月22日までカルソニック株のTOBを実施した。価格は1株1290円で、買収総額は3455億円だった。従来のTOB価格(1860円)から特別配当金を差し引いた額にしたというのだ。この奇策で、日産とKKRは大いに潤った。
日産はカルソニック株の売却金の一部を連結子会社からの配当金のかたちで得たほうが節税になり、実入りが増える。KKRは4982億円で買収するところを3455億円に引き下げることができた。双方にメリットがあり、ウイン-ウインの関係だ。
カルソニックが、そのツケを払う格好になった。手元資金は570億円しかないので、特別配当金1500億円を支払うために借金をする破目に陥った。
日産からKKRへのカルソニック株の売却は、カルソニックが莫大な借金を抱えることで成立した。カルソニックは日産から手切れ金をもらうどころか、手切れ金をふんだくられたわけだ。手練手管に長けた投資ファンドによるM&A(合併・買収)の冷徹な現実を垣間見ることになった。
TOBの成立により、KKRはカルソニックを完全子会社にした。17年5月8日、カルソニックは東証1部上場を廃止となった。
日産はカルソニックの売却で得た資金を三菱自動車の買収に充当するとともに、電気自動車(EV)や人工知能(AI)、自動運転の研究や新たな提携に回す。
カルソニックは独立系の自動車部品メーカーとして、従来の枠を超えた独自の販路開拓が求められる。日産の連結子会社当時、1兆円を超えていた売上高は、21年には7500億円程度に縮小する見込みだ。
かつてゴーン氏は、「日産リバイバルプラン」で購買コストの大幅な削減を打ち出し、自動車部品メーカーの経営者を震撼させた。鉄鋼メーカーにも鋼板の値下げを迫り、主力納入先だったNKK(日本鋼管)を切った。ゴーン・ショックがNKKと川崎製鉄の経営統合に発展し、JFEホールディングスが誕生するきっかけをつくったといわれている。
日産によるカルソニックの“系列切り”が、自動車部品メーカーの再編の引き金になるのか。さらに、日産の生産停止は、自動車部品メーカーの再編の動きを加速させる可能性が高い。
(文=編集部)