創業家と経営陣の攻防
一方、会社側も、株主の支援の取り付けに動く。17年11月14日、増配策を打ち出した。18年3月期の年間配当を従来計画の50円から80円(前期も50円)に大幅増額した。
17年は原油価格が緩やかに上昇するという最高の展開だった。ガソリンスタンドでの採算度外視の安売りにも一定の歯止めがかかり、元売り・販売など国内の石油業界全体が業績回復の果実を享受した。
原油高という一過性の要因だけであれば、7年ぶりの増配に踏み切る理由にはならない。今回の増配発表は、17年4~9月期の上期決算がまとまった直後だった。業績が回復してきたことは、増配の合理的な理由となる。
しかし、増配の本当の狙いは別にある。増配によって株主の支持を取り付け、昭和シェルとの合併に賛成してもらうことだ。
出光興産の18年3月期の業績は、売上高が前期比13%増の3兆6000億円、営業利益は同18%増の1600億円、純利益は同13%増の1000億円の見通し。ガソリンや軽油の販売でマージンが改善するほか、OPEC(石油輸出国機構)の減産再延長に伴う原油高が寄与する。
17年7月の公募増資で財務内容は改善した。有利子負債は9月末時点で9007億円と、3月末に比べて約1500億円減少。自己資本比率も、28.4%へと6ポイント上昇した。
業績の改善と“サプライズ増配”を株式市場は評価した。増配を発表した17年11月14日の終値は3575円。創業家が買い増しを表明した12月18日以降、連日、年初来高値を更新した。「創業家が再び33%超を保有するのは容易ではない。合併計画の前進というシナリオは不変」(エネルギー業界担当のアナリスト)との判断が大勢を占めたからだ。12月29日大納会の終値は4525円で、増配発表から株価は26.6%も上昇した。
株主総会に向けて、創業家と会社側の攻防は激しさを増している。
17年4月、旧JXホールディングスと旧東燃ゼネラル石油が経営統合し、JXTGホールディングスが発足。その結果、国内で50%超のガソリンの販売シェアを握る“エネルギーの巨人”が誕生した。これに対抗するためにも、出光興産と昭和シェルの「早期の合併実現」を望む声がマーケットには強い。
月岡社長ら経営陣には一刻の猶予もない。今年の株主総会で対立を解消できるかどうかが注目されている。
(文=編集部)