このうち、年金は約60兆円、医療は約40兆円、介護は約10兆円であるが、社会保障給付費は、ここ10年ほどの間で、消費税1%の増税分に相当する毎年平均2.6兆円のスピードで増加している。特に、団塊の世代が75歳以上となる23年度から25年度において、医療費や介護費が急増することが予測されている。
また近々、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)の改訂版の公表を行うが、増税判断や財政健全化のフレーム見直しは、この中長期試算の改訂版も参考に議論が進むはずである。このような状況のなか、中長期試算の前提について、先般(18年1月6日)の日本経済新聞・朝刊に以下の記事があった(太字は筆者)。
<財政試算 前提見直し 経財相「金利など現実的に」
茂木敏充経済財政・再生相は5日の閣議後の記者会見で、中長期の経済財政試算の前提を見直す考えを表明した。「金利の動向などをより現実的に修正する」と述べた。日銀が長期金利をゼロ%程度に誘導する金融緩和策(長短金利操作)を続ければ、今の想定よりも金利が低く抑えられる可能性がある。月内にまとめる新たな試算に反映する方向で検討する。中長期試算は年に2回公表している。昨年7月にまとめた高成長シナリオに基づく試算では、2018年度は0.1%にとどまった長期金利が19年度に0.7%、20年度に1.4%へと高まる想定になっていた。日銀の金融政策次第では金利の低空飛行が続く。金利が低ければ国債の利払い費も膨らみにくく、政府が財政健全化の物差しの一つに掲げる債務残高の国内総生産(GDP)比の抑制にもつながるとの見方が多い>
「財政赤字ギャンブル」が失敗する確率
財政健全化を検討するため、中長期試算の前提を現実的な姿に修正することは、筆者も賛成だが、いくつかの留意が必要でもあり、少し注意喚起をしておきたい。
第1に、金利と成長率は概ね似た動きをするという視点である。このため、長期間、高成長の下で金利を低位に抑制するのは難しい。1981年度から2016年度の約36年間において、国債金利(加重平均)と名目GDP成長率の推移を確認しても、「成長率>金利」となる期間も一時的にあるものの、金利と成長率は概ね似た動きをしている。この理由は単純で、好景気のときは資金需要が高まって金利も上昇するが、景気が低迷すると資金需要も落ち込んで金利も低下するためである。異次元緩和で未来永劫、日銀が長期金利を0%程度に抑制できる保証は何もない。