第2に、成長率が金利を下回る確率が存在すると、「成長率が金利を上回れば、財政が破綻するとは限らない」という議論は、危うい「賭け(Gamble)」になってしまう、という視点である。長期的に成長率が金利を上回り続ければ問題ないが、仮に成長率や金利の前提が「楽観的」で財政再建を先送りし、成長率が金利を下回る回数が多くなると、いずれ財政が破綻の危機に直面し、そのツケが将来世代や若い世代に押し付けられる可能性が出てくる。
経済学では、このような賭けを「ポンジーゲーム」(Ponzi game)と呼ぶが、経済学者のボールら(Ball, et al. 1998)は、不確実性をもつ経済で、「動学的効率性」と呼ばれる条件が成立しているときは、ポンジーゲームは不可能であることを明らかにしている。
では、ポンジーゲーム、すなわち「財政赤字ギャンブル」が失敗する確率はどうか。IMFのWEOデータ(1960-2016年)や小黒(09)の手法を用いて、5000本のモンテカルロ・シミュレーションで試算した結果が図表である。
IMFデータによると、16年の基礎的財政収支(対GDP)は、フランスが約1.6%の赤字、ドイツが約1.8%の黒字、イタリアが約1.3%の黒字、日本が約3.9%の赤字、イギリスが約1.3%の赤字、アメリカが約2.3%の赤字である。また、16年の債務残高(対GDP)は、フランスが約96%、ドイツが約68%、イタリアが約132%、日本が約240%、イギリスが約90%、アメリカが約107%である。
図表は、この値を前提として、日本を含む各先進国の債務残高(対GDP)がZ年後に300%、350%、400%以上になる確率を試算したものである。この図表をみると、日本の債務残高(対GDP)が10年後に300%以上になる確率は24.3%、25年後に350%以上になる確率は42.8%、50年後に400%以上になる確率は65.3%であり、それ以外の先進国と比較しても突出して高いことが確認できる。現状では、財政も社会保障も持続可能でない可能性が高い。財政健全化の「旗」をけっして降ろさず、持続可能かつ中長期的な社会保障・税制の姿について、より踏み込んだ検討を早急に行う必要がある。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)