鈴木親子が主導し、社運を賭けた「オムニ7」が迷走
「ネットを制するものはリアルを制する」
これはセブン&アイHD元会長の鈴木敏文氏(現名誉顧問)の有名な言葉である。
13年11月、鈴木会長(当時)は「セブン&アイは第2ステージを迎えた」と宣言し、グループの総力を挙げたオムニチャネル戦略に乗り出した。オムニチャネルとは、店舗とインターネットを融合させ、あらゆる販路を活用してモノを販売することを指す。
セブン&アイHDは15年11月、グループ共通の通販サイト「オムニ7」を始めた。コンビニエンスストアやスーパーマーケット、百貨店、ベビー用品の専門店など、グループ各社の商品を一括して注文できるようにした。鈴木氏は次男の康弘氏をオムニ7のトップに据え、サイトの開発などに1000億円を投じると表明した。「19年2月期にオムニ7の売上高1兆円」という大目標を掲げた。
しかし、ネット通販は計画したようには伸びなかった。“反鈴木”の包囲網が形成され、鈴木氏は16年5月辞任に追い込まれた。
鈴木氏の後を受けて社長に就任した井阪隆一氏は“脱鈴木”路線を進める。真っ先に槍玉に挙がったのが、鈴木親子が取り組んだオムニ7だ。「アマゾンや楽天など有力なコンペティター(競争相手)が林立するなか、不特定多数のお客様に向けアプローチしてきたことが失敗の原因」と一刀両断し、16年10月にはネット通販を軸にしたオムニ戦略を見直すと表明。「顧客ごとにグループ各社の利用状況をつなげ、全チャネルを通じてサービスの質を追求していくこと」に変更した。お役御免となった康弘氏は16年末で退社した。
新体制のもとでのオムニ7の実績を見てみよう。17年3~11月期のオムニ7経由の売上高は797億円。前年同期比で78億円増えた。配達型のネットスーパーの売り上げは329億円と8.5億円減った。食品宅配のセブンミールの売り上げは192億円で、これも4億円のマイナスだ。
オムニ7の18年2月期の通期の売上高は1400億円の見込み。前年より423億円増える。セブンネットショッピングやイトーヨーカドーが牽引するが、ネットスーパーとセブンミールは大苦戦だ。セブン&アイHDが生鮮食品の宅配へ進出するのは、ネットスーパー、セブンミールのテコ入れを図るためといえる。
それにしても、オムニ7の18年2月期の売り上げ見込みが1400億円という数字には驚かされる。惨敗といえる。19年2月期の大目標1兆円の足元にも及ばない。1年間で売り上げを7倍強に増やすことなど不可能だ。鈴木氏の掲げたオムニ戦略による「第2の創業」が、蜃気楼でしかなかったことを数字が裏付けた。
(文=編集部)