「押し紙」のメリット
新聞社にとって「押し紙」には2つのメリットがある。まず、販売収入を増やせることである。それから、「押し紙」により公称部数をかさ上げすることで、紙面広告の営業が有利になることである。
「押し紙」裁判では、販売店側が新聞社に対して「押し紙」を明確に断ったかどうかが、最大の争点になる。大量の残紙があったことを販売店側が立証できても、「押し紙」を断った証拠がなければ、損害賠償請求は認められない。
なぜなら、新聞販売店は折込広告の受注が多ければ、その収入で「押し紙」で発生する損害を相殺できるからだ。そうすると損害は受けない。たとえば新聞1部の原価が月額1500円で、新聞1部から得られる折込広告の収入が月額2000円であれば、「押し紙」1部が逆に月額500円の利益を生む。
こうした状況の下では、「押し紙」は負担にならない。そのために販売主のなかには、自ら進んで「押し紙」を引き受ける者もいる。そこで「押し紙」を明確に断ったかどうかが、裁判で賠償を認めるかどうかの判断基準になるのだ。
実際、これまでの「押し紙」裁判で大半の新聞社は、残紙が存在していたこと自体は認めた上で、自分たちは「押し売り」をしていないので賠償責任はないと主張してきた。過剰な新聞を仕入れることを販売店側も承知していたので、残紙は「押し紙」ではないとする見解だ。日本新聞協会も「押し紙」は1部も存在しないとする立場を取り続けている。以前に筆者が日本新聞協会に「押し紙」について質問しようとしたところ、「残紙のことですか?」 と、切り返されたことがある。
新聞業界全体へのインパクト大
参考までに今回元店主が起こした裁判の毎日新聞社側準備書面から、毎日新聞社側の言い分を引用しておこう。
<即述のとおり、販売店では販売担当社員の訪店時などに、当月の販売状況や翌月の販売見込み、奨励金・補助金、折り込み広告収入などを総合的に勘案し、販売担当社員と合意の上で取引内容を決めるのであって、販売店側の一方的な不利益の下でその了解のないまま反訴被告(販売店)が一方的に送り付けるものでないことは、再三述べたとおりであり、反訴原告の云ういわゆる「押し紙」はない>