資生堂は10年10月3日、米サンフランシスコに本拠を置く化粧品会社ベア社を19億ドル(当時の円換算で約1800億円、100%の株式取得に17億ドルを充当。債務の継承2億ドル)で買収すると発表した。
資生堂の09年3月期の売上高は6900億円で、その25%に相当する金額を投下する大型買収だった。しかも、大型買収で通常使われる株式交換による買収ではなく、自己資金300億円と銀行からの借り入れ1500億円で賄った。
ベア社の年間売上高は約500億円。テレビショッピングを軸にミネラル100%でつくる「ベアミネラルファンデーション」などの“自然派”と呼ばれる化粧品を展開する。“自然派”系で強いブランドを持っていなかった資生堂は、米国や欧州市場での拡大が見込めるとして、この買収に踏み切った。ベア社の買収で11年3月期の海外部門の売り上げ比率は、その前の期の37%から43%に高まり、買収は成果を上げたかに見えた。
しかし、買収後のベア社の業績は低迷した。主たる原因は広告・宣伝の路線変更にあった。百貨店や化粧品専門店での売り上げ拡大に向けて、得意としてきたテレビショッピングを縮小。テレビショッピング用の化粧品を、百貨店でも販売する化粧品に格上げすることを狙った。ところが、これが大失敗だった。
百貨店市場では世界の名だたる化粧品メーカーの高級ブランド品が競い合っており、ベア社が食い込む余地はなかった。ベア社の収益は低迷。マーケティング戦略が誤っていたのだ。
資生堂は13年3月期連結決算でベア社ののれん代の減損として286億円の特別損失を計上。8期ぶりとなる146億円の最終赤字に転落した。この経営責任を問い13年4月、社長の末川久幸氏を解任。11年から会長を務めていた前田新造氏が社長に復帰し、後任社長の人選を進めた。その前田氏が再生の切り札として白羽の矢を立てたのが魚谷氏だった。
ベア社に絡む減損は13年3月期に続き2度目で、合計額はのれん代とほぼ同額の951億円となった。償却分を含めた買収のコストはのれん代を上回り、ベア社は海外の大型M&A(合併・買収)の失敗例となった。
17年12月期に業績を伸ばしたとはいえ、浮かれるのはまだ早い。回復は道半ばだ。
企業の収益性をはかる指標にROE(自己資本利益率)がある。ROEは最低でも10%以上が目安。グローバル企業は15%以上を求められるが、資生堂のそれは5.6%。これではグローバル企業の仲間入りはできない。
足を引っ張っているのは、大手化粧品メーカーが君臨している米国と欧州だ。これらの地域での事業の立て直しが急務となる。
世界の化粧品メーカーの巨人、仏ロレアルや米エスティローゼを追いかけるうえでの、経営課題がはっきり見えてきた。
(文=編集部)