ウーバーのメリット
こうしたウーバーのメリットについて、ドライバー、利用者の両面から見ていきましょう。
まず、ドライバーは自分の好きな時間にお金を稼ぐことができます。また、現在所有する自分の自動車を活用できるため、設備投資の必要がありません。
一方、利用者の立場に立てば、タクシーよりも安く利用できます。具体的にアメリカでは2~3割安いようです。そもそも、アメリカやヨーロッパなどではタクシーをつかまえるのにも大変苦労する街が少なくないので、大変便利です。
このように、先進国においては価格の安さ(+便利さ)が注目されがちですが、東南アジアなどの新興国では、ほかにも多くのメリットがあります。たとえば、筆者はフィリピンでウーバーを利用したことがあります。飲み会の解散が遅くなったため、現地の方が私のために呼んでくれたのです。
フィリピンに限らず、多くの新興国におけるタクシーは古い、汚いという場合が極めて多いです。また、ドライバーによって顧客対応の良し悪しの差が激しく、ひどい場合は遠回りをされる、スピードメーターが早く上がるなどにより、必要以上の金額を払わされるといった詐欺的な事案もよく耳にします。
さらには、人気のないところに連れていかれ、お金を盗られたり、それ以上の犯罪も日本に比べれば断然起こる可能性が高いのです。
しかしながら、ウーバーではこうした問題がかなり生じにくくなります。なぜなら、まず登録されたドライバーに予約するというシステムにより、ドライバーの身元がはっきりしています。さらに、過去の乗客の各ドライバーおよびその自動車に対する評価を確認したうえで予約を行うことができるため、客は条件の良いドライバーや自動車を選べます。
逆に、各ドライバーは客の評価が記録に残るため、接客などには細心の注意を払い、自動車も常にきれいにしています。そうでなければ誰も予約してくれないからです。金額は予約時に確定済みのため、遠回りされるといった心配もありません。さらに、私の乗った自動車の場合、カーナビのようにスマホに地図とルートが示され、そのルートを順調に進んでいることが後部座席からも確認できるため、どこか怪しいところに連れていかれるリスクも低くなります。
つまり、こうした新興国において、ウーバーは利用者に安全や快適さを与えているわけです。
もっとも、フィリピンではウーバーは法的にグレーゾーンらしく、このままサービスを続けさせるべきかといった議論が、毎日のようにテレビ番組で取り上げられていました。
また、日本では、過疎地での試験的運用などの例外を除けば、法律上認められないため、ウーバーはタクシー業者と連携し、利用者からの予約を請け負い、タクシー会社に紹介するといったサービスを展開していますが、ビジネスとしては現在のところ、うまくいっていないといえるでしょう。
今後、日本でも法律が改正されウーバーのようなサービスが普及するのか、興味深いところです。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)
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