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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

労働生産性が低い日本人は、本当に仕事ができないのか? 大いなる誤解

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

 次にこのスーパーの労働生産性について考えてみます。このお店が売った商品の粗利益、つまり付加価値が積もり積もって1年間で3000万円になったとしましょう。お店を10人で運営しているとすれば、このお店の労働生産性は、3000万円を10人で割って300万円、ということになります。

 そして、GDPとは、お店ごとの付加価値を国全体で足し合わせたものと考えてください。

 専門的な要素を無視してざっくり言いますと、日本のGDPはおよそ500兆円です。就業者の数がおよそ6500万人ですから、労働生産性はおよそ770万円、ということになります。正確な数字は2013年度の名目ベースで756万円です。

 数字が出てきて少し混乱してしまったかもしれませんが、要するに労働生産性とは、付加価値を労働者の数で割ったもの、ということです。

 さて、先ほど例にあげたスーパーが労働生産性を上げたいと考えたとします。それには2つの方法があります。ひとつは付加価値を増やすこと、もうひとつは労働者の数を減らすことです。

 ひとつ目の付加価値を増やすには、値上げをするか、仕入れ価格を下げるか、売る量を増やすか、またはそれらの組み合わせで行います。それについてはもうすでに限界まで努力したとなれば、労働者の数を減らします。

 個別の企業が、付加価値を同じに保ったまま労働者の数を減らすと、国全体ではGDPが一定で、就業者の数が減るわけですから、労働生産性は上がります。しかし、そうすると失業者の数が増えることになります。

停滞をワークシェアリングで乗り切った日本

 さて、バブル経済崩壊以降のおよそ20年間の日本の実態を見てみると、GDPも就業者数も、横ばいに近い右肩下がりです。また失業率も低いままです。そして、平均賃金はずっと減少傾向で来ました。ちなみに、賃金は付加価値のなかから払われます。

 つまり日本は何をしてきたかというと、いわゆるワークシェアリングをしてきたわけです。個別の企業でも付加価値が減った分を雇用削減ではなく賃金引き下げで対応してきたのです。リーマンショックや震災など日本にはさまざまな経済的試練がありましたが、失業者が街にあふれることもなく、みんなが賃下げを受け入れることで乗り切ってきたわけです。また、最近は格差の拡大が話題に上ることもありますが、諸外国と比べたら小さいものです。

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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