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楽天の暴走…日米の安全保障上の懸念材料に

文=編集部
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楽天の三木谷浩史社長(撮影=編集部)

 菅義偉首相はバイデン米大統領との日米首脳会談で安全性の高い第5世代移動通信ネットワーク「5G」の推進や、半導体など重要な戦略物資の供給網(サプライチェーン)構築に関する協力拡大で合意した。バイデン政権は安全保障や経済の覇権をめぐって対立する中国を強く警戒し、安全保障上の重要な製品の「脱中国依存」を目指している。今回の首脳会談で日本からの協力を取り付けた。ただ、半導体の材料や通信機器の部品を中国に頼る日本にとって「完全なかたちでのデカップリング(分断)は至難の業」(貿易会社幹部)だ。

 楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は3月末、中国ネット大手、騰訊控設(テンセント・ホールディングス)の子会社からの払い込みが完了したことを確認した。テンセント子会社の出資額は657億円で出資比率は3.65%。この出資が波紋を描いている。膨大な個人情報を持ち、通信事業も営む楽天への中国企業の関与が経済安全保障上の問題として急浮上してきたからだ。

 楽天は日本郵政、米ウォルマート・ストアーズなど5社を引受先とする第三者割当増資で2423億円を調達した。テンセントの出資はこの一環である。「テンセント子会社からの楽天への出資では外為法(外国為替及び外国貿易法)の不備が露呈した」(外交筋)と指摘された。中国による先端技術取得に危機感を抱いた米欧は相次いで投資規制を強化したが、日本は出遅れた。何もしないままでは日本が中国への技術輸出の抜け穴になっているとの批判を招きかねない。2019年秋に重い腰を上げ、外為法の改正に乗り出した。

 改正外為法では、外国の投資家が指定業種の上場企業の株式を取得する際に、事前届け出が必要な基準を従来の10%から1%に引き下げ、厳しくした。武器製造、原子力、電力、通信などが国の安全などを損なう恐れが大きい業種として挙げられている。携帯電話を手がける楽天は、当然、この対象となるはずだった。

 だが、米国のファンドなどから、「投資を阻害する」との批判の声が上がったため、「取締役の派遣など経営参加をする場合以外の純投資では、届け出義務を免除する」との例外規定が設けられた。テンセントは楽天の発行済み株式の3.65%を握ったが、「経営に関与しない」との一文を契約書に入れたという。これによって例外規定に合致したとして、当局は届け出を不要と判断した。

 ところが、永田町や霞が関から「テンセントの出資は安全保障上問題がある」と懸念の声が上がった。昨年、テンセントが開発したアプリ「ウィーチャット」が米国で問題になり、トランプ大統領(当時)がダウンロードを禁止する大統領令を出し、連邦地裁が執行を差し止めるという騒動が起きたことは記憶に新しい。

国内の経済問題の範囲を超える

 中国は17年、国家の情報収集への協力を義務付ける「国家情報法」を施行した。民間企業といえども、中国当局が求めれば情報を出さなければならない。トランプ氏はテンセントについても「国家安全保障を脅かす恐れがある」として、米国人による投資の禁止を一時検討したほどだ。「そんなテンセントが携帯電話会社の楽天に出資するのは問題ではないか」(自民党の通商族議員)というわけだ。

 楽天の三木谷社長は「テンセントグループとは協業の可能性を探る」と記者会見で明らかにしたが、火が付くと「あくまで純投資で業務提携はしない」と釈明した。テンセントの楽天への出資について、バイデン政権も強い関心を示している。楽天は19年、5G向け技術を持つ米アルティオスター・ネットワークスに出資している。テンセントとの業務提携の内容次第では、米国からいったん承認を得た案件が白紙に戻る可能性もある。

 楽天・テンセント問題は、もはや国内の経済問題ではなくなった。楽天は「テンセント・リスク」について、米国だけでなく、国内の投資家や国民にきちんと説明する必要がある。三木谷氏は4月30日のイベントで「テンセントは米電気自動車(EV)大手のテスラにも投資しており、一種のベンチャーキャピタルだ。何をそんなに大騒ぎしているのか、まったくわからない」としているが、「テスラはEV(自律走行車)屋。一方、楽天は情報通信会社。通信は国の安全を左右するインフラを担っているという“社会的責任”が理解できていない」(自民党の有力商工族議員)との指摘もある。

 英政府は外国企業によるM&A(合併・買収)の規制強化を進めている。中国を念頭に通信など重要分野の技術流出の防止を目的とした「国家安全保障・投資法」が4月末に成立した。米半導体大手エヌビディアによるソフトバンクグループ(SBG)傘下の英アーム買収も安全保障面から調査する予定。買収承認に影響を及ぼす可能性が出ている。英政府は米国企業にも容赦しない。中国企業だけではなく、あらゆる面から安保上の影響を検証する。

「国家安全保障・投資法」は人工知能(AI)、量子コンピューター、通信、防衛、エネルギーなど17分野が対象だ。これらの分野の英国企業に投資する際は、政府への事前の届け出を求める。安保上問題があると判断した場合、政府は取引を阻止することができる。英政府は20年7月、ファーウェイを高速通信規格「5G」から排除することを決定。11月に「国家安全保障・投資法案」を議会に提出した経緯がある。

(文=編集部)

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