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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国の「大富豪」実業家が実践する「毎日の習慣」

文=相馬勝/ジャーナリスト

長男誘拐事件

 この鋭い分析力の基本が毎日の習慣だ。李氏は毎朝5時59分に起床し、6時のテレビニュースを見る。朝食後に1時間半ゴルフをする。これで身も心もすっきりして、香港中心部にあるオフィスに入る。

 オフィスのデスクには毎朝、ウォール・ストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズ、エコノミストなど英語の経済紙誌が置かれており、李氏は関心のある記事をチェックすると、会社のスタッフがすぐに中国語に翻訳し、李氏の元に届けられる。李氏は「私は執務中、これらの情報を基に全体の90%の時間を使って、将来のことを考えている」と明かしている。

 ビジネスばかりでなく、教養をつけるため、毎日寝る前に一定の時間、専門以外の国際情勢や外交、政治、社会問題などの専門書を読むことにしているほか、夕食後は毎日20分間程度、英語のニュース番組をみているという。

 李氏の人生でもっとも大きな事件のひとつが、長男のビクター・リー氏の誘拐だ。リー氏は1996年のある朝、自動車で通勤途中にマフィアのボス、張子強らの一団に誘拐される。張は電話で李氏に「20億香港ドル(約300億円)」の身代金を要求する。李氏は張に「私の手元には現金で10億香港ドルちょっとがある。これは、すぐに渡すことができる。だが、絶対に20億香港ドルが必要というのならば、銀行に連絡しなければならないので、時間がかかる。君はどちらを選ぶかね」と尋ねたという。

 犯人の張は「李さん。あなたは、なぜそのように冷静なのか」と質問すると、李氏は「私ほどの有名人が、長男のビクターの身辺警護についてもっと真剣に考えなかったことが、私の誤りだった。私の過失だから、いくらでも金は出さなければならない」と答えた。

 李氏はゴルフに行くとみせかけて、午前5時に自身で現金の受け渡し場所に出かけ、張に現金を渡したが、その際、「あなたはこの金を子分らに分けて、好きなように使うだろうが、それは君のためにならない。しっかりと将来のために使うように考えるべきだ」と説教。一笑に付していた張だが、その後も李氏に電話をかけて、「どのように使えば良いのか」と質問。李氏は「保険への投資がよいのでは」と答えたという。

 結局、張はバンコクに高飛びしたあと、香港に舞い戻り、国境を越えて広東省に足を踏み入れた際、中国当局に逮捕され、中国の刑法によって死刑に処せられた。この間、張が李氏のアドバイスに従って保険に投資したかどうかは定かではない。

 李氏は5月10日に行われる株主総会で正式に引退し、その後任として長男のビクター・リー氏が会長に就任する人事が承認される予定だ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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