理工系人材争奪戦を始めた金融機関は、絶望的なほど彼らを無駄遣いする理由
しかし、彼らの多くはどうなったかというと、システム部門に配属され、基幹系システムの“お守り”をさせられるというのがお決まりのパターンだった。片道切符でシステム子会社に転籍させられた者も少なくない。
なぜそんなことになってしまうかというと、そのような異能分子を理解し、活用しきれるだけの知識と度量を持った人間が上にいないからだ。組織は、上に立つ者の能力と度量がボトルネックになる。そのような例は至るところで見受けられる。
たとえば、社費で海外の有力ビジネススクールに留学させた社員がMBAを取得して戻ってきても、ほどなくして外資系に転職してしまうという話がよくある。その大きな理由は、上に立つ者がそれだけの人材を活用しきれないからだ。
私にも似たような経験がある。ITと会計という2つの専門性を武器にコンサルティング会社に転職したが、「両方に強いコンサルタント」という使われ方をしたことは皆無だった。どちらかの専門家はいても、両者をちゃんと理解できる者が上にいなかったからだ。
先の日本経済新聞の記事では、従来の理工系学生の採用がうまくいかなかった理由として、マネックス証券の大槻奈那氏が「採用側に優秀な人材を見抜く目がなかった」ことを挙げている。確かにそれはその通りだが、見抜く目を持つ人だけでは足りない。そのような異能分子を理解し、活用しきる者が上にいることが不可欠だ。
しかし、それはほぼ絶望的である。いまだに横並び意識が強く、減点主義、事なかれ主義が染みつき、出る杭はとことん打たれる日本の金融業界の人たちである。「グーグルと奪い合いになるような人材」を活かし、評価し、処遇しきれるとは思えない。それどころか、会話も成り立たないかもしれない。下手したら変人にすら見えるだろう。
そうならないようにする方法はただひとつ。役員をはじめとする上のポジションにこそ外部から異能人材を入れるのだ。本当に異能人材が必要なのはそこだ。
それができなければ、理系人材の無駄遣いをまた繰り返すだけでなく、企業としての存続さえ危うくなるだろう。外資系金融機関やベンチャー企業には、大手金融機関が言う「異能人材」が普通の人材としてたくさんいるのだから。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)