労働環境改善は見せかけだけ?
事業別の状況はどうだろうか。
売上高の減少が続いていた国内外食事業は、増収に転じた。売上高は2.2%増の483億円だった。営業損益は5.5億円の黒字(前期は2.2億円の赤字)で、黒字は5期ぶりとなる。店舗数が12店減って467店になったものの、わたみ隠しで既存店売上高が5.3%増加したことが業績改善に大きく貢献した。
弁当などを宅配する宅食事業も増収に転じた。売上高は1.3%増の380億円、営業利益は17.9%減の19.8億円だった。広告宣伝費が増えたほか、食材原価や人件費などの製造コストが上昇したため減益になったものの、事業は安定してきている。
営業赤字が続いていた海外外食事業は4期ぶりに黒字に転換した。不採算店の閉鎖を進め16店が減って70店になったため売上高が42.2%減の74.1億円と大幅な減収になったものの、営業損益は6100万円の黒字(前期は5400万円の赤字)に転換している。収益性の改善が進んでいる状況だ。
ワタミはわたみ隠しを進めるだけでなく、組織改革も進めている。従業員から過労自殺者を出したり、内部告発者を懲戒解雇したことが明らかになったりするなどで「ブラック企業」のレッテルを貼られ、同社は客離れに苦しんでいた。
そこで、14年に外部有識者を交えた「コンプライアンス委員会」と「業務改善委員会」を設置し、労働環境改善の取り組みを進めてきた。16年には同社初となる労働組合を発足している。
労務改善策を実施したことから、18年3月期の平均残業時間は前期から12%減り、平均公休日数は増えたという。従業員一人ひとりの勤務時間と作業内容を明らかにして割り当てる「ワークスケジュールシステム」を全店に導入したほか、営業時間や店休日を見直すなどした。
ただ、同社は本当に変わったのだろうか。創業者の渡邉美樹参議院議員が3月13日の参院予算委員会で、過労死遺族を前に「お話を聞いていると、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえる」と発言し、遺族から抗議を受けて16日に謝罪に追い込まれた。渡邉氏は経営から退き、会社の運営に関与していないとされているが、依然として大株主の立場にあり、影響力は大きいとの指摘もある。そのため、渡邉氏の発言を受けて、ワタミ社員の働く環境が良くなっていないことを示しているとの疑念を抱く向きも多かったようだ。
ワタミに対する世間の目は依然として厳しいものがある。本当に変わったかどうかを見極めるには、もう少し時間が必要だろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。