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原発、「安全」「コスト安」神話崩れる、「クリーン」に疑問も…国、太陽光のコスト優位性認める

文=横山渉/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 エネルギー政策の中長期方針を示す「エネルギー基本計画」の改定原案を21日、経済産業省が公表した。エネルギー基本計画は3~4年ごとに見直されており、電源構成における再生可能エネルギーの割合を36~38%にするとしている。現行計画では22~24%なので、10ポイント以上の大幅引き上げだ。

 原子力発電については現行計画の20~22%と同じ水準を維持したものの、原発の新増設や建て替え(リプレース)は盛り込まれなかった。これに先立ち、経産省は12日、2030年時点での電源別の発電コストを公表した。この試算によれば、これまで最安とされてきた原発よりも太陽光発電のほうが安くなるという。経産省が太陽光のコスト優位性を認めたのは初めてのことだ。

 30年に新たな発電設備を更地に建設・運転する場合のkWh当たりのコストは、太陽光(事業用)で8円台前半~11円台後半、原発は11円台後半~とされている。原発のコストは、試算のたびに引き上げられてきた。福島原発事故を受け、廃炉や除染の費用、テロ対策など新たな安全対策費の増加を反映させてきたからだ。11年の試算では30年時点で1kWh当たり8.9円以上だったが、15年には10.3円となり、今回は11円台後半まで増加した。

 ちなみに、主な他の電源については次の通り。

・陸上風力は9円台後半~17円台前半

・洋上風力は26円台前半

・液化天然ガス(LNG)火力は10円台後半~14円台前半

・石炭火力は13円台後半~22円台前半

安全神話が崩壊、コスト競争でも敗退、残るは安定性のみ

 11年3月の福島原発事故以前、原発の優位性は「安全」「コスト安」「安定」の3つが語られてきた。原発推進派は、原発反対派からアメリカのスリーマイル島原発事故や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故のことを指摘されても、「日本の原発は海外よりも高性能で安全」という根拠のない安全神話を繰り返すばかりで一歩も引くことがなかった。しかし、福島原発事故で安全神話は崩壊し、さすがに安全だと強弁する声は聞こえなくなった。

 代わりに原発の存在意義として前面に出てきたのが「コスト安」「安定」そして「クリーン」である。ただ、今回の経産省の試算がなくても、福島原発事故でコスト安神話も崩れていた。原発事故処理に今後もどれだけ巨額な公金が投入されるのか、はっきりとは誰もわからない状態だ。到底、原発が安い電源とはいえまい。

「クリーン」というのは、地球温暖化防止に寄与するという話だ。確かに、原発は発電の際に二酸化炭素(CO2)を排出しないが、直接的な廃熱を放出していて、大きな環境負荷を与えているという反論もある。日本では原発はすべてが海に面して立地しているが、それは冷却水確保のためだ。日本原子力研究開発機構の資料によれば、温排水は100万 kW の原子力発電所の場合、1秒間に70トンの海水の温度を7℃上昇させるという。

「安定」というのは、季節、天候、昼夜を問わず、一定量の電力を安定的に供給できるということであり、原発はベースロード電源に位置づけられている。原発の優位性はこれひとつだけになってしまったわけだ。

 太陽光は不安定な電源であるうえに、日本は平地が少なく、メガソーラーの適地が少ないのもデメリットだ。山間部で土地を確保すれば、造成費や遠く離れた送電網につなぐ費用などの追加のコストがかかる。さらに、国土面積の約1割は所有者不明の土地になっており、これも土地の有効活用を阻んでいる。

 30年までに太陽光の発電コストが大きく低下するという経産省の試算は、発電量が増えることと技術革新が進むことが前提とされているので、今後はそれらの課題を国主導で解決しなければならない。

災害に弱い大規模集中発電 電力システムは分散型へ

 そもそも、原発だけでなく、火力発電(石炭・石油)などの大規模集中型エネルギーシステムは時代後れだ。18年、北海道胆振東部地震によって北海道全域がブラックアウトとなり、19年9月は関東を襲った台風15号により首都圏で最大約93万4900戸が停電した。とくに被害の大きかった千葉県では最大約64万1000戸が停電し、復旧に長期間かかった。20年9月に沖縄・九州を襲った台風10号でも、九州や中国地方で40万戸以上の停電被害が発生している。

 そして、熱海の土石流の原因となった7月3日の大雨では、首都圏と静岡県で合わせて4000戸近くが停電した。大雨やゲリラ豪雨のときは停電が発生しやすいことがわかる。大規模発電所でつくられた電気が長い送配電網で各家庭に届けられる古い電力システム、その脆弱性が近年の自然災害のなかで明らかになっている。

 災害からの「早期回復」「早期復元」を意味する「災害レジリエンス」の観点から、日本は分散型のエネルギーシステムが向いていることは論を待たない。エネルギーの「地産地消」である。

 実際、エネルギー地産地消の動きは全国に広がっており、7月13日には宇都宮市が出資する栃木県内初の地域新電力会社「宇都宮ライトパワー」が設立された。23年開業予定のLRT(次世代型路面電車)の運行に必要な電力をすべて賄うほか、市庁舎や図書館、体育館など約240施設にも供給する。市は、年間約1万1000トンのCO2を削減し、年間500万円程度の電気代が節減できるとしている。

大手電力がカルテルか 独禁法違反の疑い

 エネルギー地産地消の動きが広まると、原発頼みの経営を続ける大手電力はますます困る。

 7月13日、事業者向けの電力供給をめぐり独占禁止法違反のカルテルを結んでいた疑いで、公正取引委員会は、九州電力、関西電力、中国電力、九電みらいエナジーの4社に立ち入り検査を始めた。

 電力の小売り市場は16年に全面自由化され、各地の大手電力による地域独占の構図は崩れ、競争が激しくなっている。カルテルは18年ごろから行われていたそうだが、これによって事業者の電気料金が高止まりしていた可能性もある。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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