中古車「100万円台」消滅の真相…輸出170万台・相場13%高騰、今後も続く?

●この記事のポイント
オークネット指数で前年比13%超上昇、中古車輸出は3年連続過去最高の170万台超。円安による海外バイヤーの「買い負け」構造と下取り車不足が重なり、中古車相場は一過性ではなく構造的な高止まりへ移行。販売店倒産も13年ぶり高水準となった市場の現在地と今後の展望を解説。
2024年末から2025年初頭にかけて、トヨタ・アルファードをはじめとする人気車種の中古車相場が「異常高値」として注目を集めた。あれから半年以上が経過した現在、表面的な過熱感は落ち着きを見せているように映る。だが実態は「値下がり」ではなく、市場全体のベースが一段と切り上がる「構造的な高騰」への移行が起きている。本稿では、複数の統計データをもとに現状を検証し、2026年後半以降のシナリオを展望する。
●目次
- 指数が語る「底上げ」の実態
- 円安が生む「海外バイヤーの購買力」と国内の「買い負け」
- 輸出ルートの多極化と需要の底堅さ<
- 国内供給(下取り車)の慢性的不足
- 2026年後半〜2027年に向けた3つのシナリオ
- 相場観のリセットと「資産として見るクルマ」の視点
指数が語る「底上げ」の実態
中古車市場の価格動向を把握する上で信頼性の高い指標の一つが、株式会社オークネットと東京大学エコノミックコンサルティング(UTEcon)が共同開発した「中古車市場価格指数」だ。年間50万台超の流通データをもとに、品質の変化を統計的に除去した上で価格変動を指数化しており、単純な「平均取引価格」とは一線を画す手法で算出されている。
2026年1月の同指数は2.637(2008年7月=1)を記録し、前年同月比で13.04%上昇した。最新の2026年3月データでは前月比4.23%の調整が入ったものの、前年同月比では13.11%の上昇水準を維持している。一時的な月次の振れはあるが、前年比では二桁台の上昇が続いており、「相場が下がった」と判断できる状況にはない。
ボディタイプ別に見ると、ラグジュアリーカテゴリーが前年比18.63%上昇と最大幅を記録し、ミニバン、ミッドサイズ、コンパクト、バン・トラック、SUVのすべてのカテゴリーで上昇した。アルファードやヴェルファイアなどの高級ミニバン・大型SUVにとどまらず、波及効果がほぼ全セグメントに及んでいることを示している。
円安が生む「海外バイヤーの購買力」と国内の「買い負け」
高騰の最大の原動力は、長期化する円安による輸出需要の膨張だ。為替が1ドル110円だった時期に220万円だった中古車は海外バイヤーにとって2万ドルの価値だったが、1ドル150円の水準では同じ220万円がおよそ1万4,667ドルと大幅に割安になる。この為替差が、海外バイヤーと国内ディーラーとの間に「資金力の非対称」を生み出し、国内販売店がオークションで「買い負ける」構図を固定化させている。
輸出台数の伸びはデータにも明確に表れている。日本中古車輸出業協同組合(JUMVEA)によれば、2025年の中古車輸出台数(車両価格20万円以上)は前年比9.1%増の170万8,604台となり、3年連続で過去最高を更新した。財務省の貿易統計ベースでも、中古乗用車の輸出台数は前年比9.3%増の149万0,242台、輸出金額は前年比17.4%増と、台数・金額の双方で増加を記録した。
この構図は一般消費者が日常的に使う市場にも深刻な影響を与えている。国内中古車市場は海外需要の高まりにより輸出に回るケースが増え、慢性的な在庫不足が生じた。結果として中古車価格は高止まりし、仕入れ負担の増加と購買意欲の低下を懸念する声が販売現場から上がっている。
輸出ルートの多極化と需要の底堅さ
対ロシア輸出規制(排気量1,900cc超のガソリン車・ハイブリッド車等の禁止)が強化されたことで、市場冷却を見込む声もあった。だが実際には、モンゴルやUAEなど第三国を経由した輸出ルートが頻繁に使われており、引き続き日本車の高い需要が見受けられる。輸出先もUAE(中東・アフリカ・旧ソ連諸国への再輸出ハブ)、アフリカ(タンザニア・ケニア・南アフリカ)、東南アジアへと多角化・分散化が進んでいる。
輸出ルートが瞬時に組み替えられるこの適応力は、日本の中古車に対するグローバル需要の質的な強さを示している。「規制があれば需要は消える」のではなく、「経路を変えながら需要は持続する」という実態が確認されている。
国内供給(下取り車)の慢性的不足
需要側だけでなく、供給側にも問題が存在する。物価高や実質賃金の伸び悩みを背景に、国内の自動車ユーザーが新車への乗り換えを先送りし、現在の車に長く乗り続ける傾向が強まっている。海外輸出業者は不動産の爆買いと同様の考え方で「ここまで資金を突っ込んで買っておけば輸出で儲けられる」という目一杯のラインまで投資するため、在庫確保の競争は厳しくなり続けている。
良質な下取り車(タマ数)の供給が絞られる一方、輸出需要が旺盛な状況では、国内向け在庫は構造的に枯渇しやすい。
こうした状況の表れとして、帝国データバンクの調査によれば、2025年1〜5月の中古車販売店の倒産件数は50件に達し、前年同期比56.3%増と大幅に増加した。5カ月間で50件を超えるのは2012年以来13年ぶりであり、年間100件超えの可能性も指摘されている。需要自体は堅調でも、仕入れ競争に敗れた中小業者が倒産に追い込まれる「勝者なき高騰」が起きているともいえる。
「今起きていることは、中古車市場の”グローバル統合”と呼べる現象です。かつては国内完結型だった中古車の価格形成が、為替と国際需要に直接リンクした。この構造変化は、為替が大幅に円高方向に振れない限り、短期間での逆転は考えにくい。国内ユーザーはこの前提を織り込んで購買行動を再設計する必要があります」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
2026年後半〜2027年に向けた3つのシナリオ
シナリオA:相場の「高止まり」の定着(最も可能性が高い)
1ドル150円前後の為替水準が続く限り、海外需要が国内相場の床を支え続ける。「予算100万円で選べる良質な高年式車」という以前の市場環境は、容易には戻らない公算が大きい。
シナリオB:二極化の加速
輸出人気の高いトヨタ系SUV・ミニバン・ハイブリッド車は、引き続き一般消費者には手が届きにくい価格帯で推移する。その一方で、海外需要が相対的に薄い軽自動車や一部の国内特化型コンパクトカーには国内ユーザーの需要が集中し、こちらも緩やかな上昇または高値安定が続く見通しだ。この「車種・セグメントによる価格格差の拡大」は、購買層の分断をより鮮明にする可能性がある。
シナリオC:円高転換による部分的な緩和(可能性は低い)
日銀の政策変更等により1ドル=130円台前後まで円高が進んだ場合、輸出採算の悪化を通じて国内オークション価格の上昇圧力が緩和される可能性はある。ただし、それ以外の構造要因(下取り車不足・新車価格の高止まり)は残るため、全面的な相場下落を期待することは合理的ではない。
相場観のリセットと「資産として見るクルマ」の視点
今次の中古車高騰は、単なる人気車種への投機的な過熱ではない。日本円の購買力低下というマクロ経済の変化が、グローバルな自動車需給と直結したことで起きている「市場の構造的転換」だ。
売却・乗り換えを検討している人にとっては、リセールバリューが歴史的な高水準にある今は、依然として有利な局面だ。一方、購入を検討している人に「待てば下がる」という判断が通用しにくい時代に入っている。年式や走行距離の許容範囲を広げるか、あるいは予算の前提そのものを見直す段階に来ているといえる。
かつての「中古車の相場感」を一度リセットし、日本の中古車がグローバル市場で高く評価される資産であるという認識のもと、カーライフの中長期的な設計を行うことが、これからのユーザーに求められる視点ではないだろうか。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)











