1980年代から視聴率競争で常にトップ争いをしてきた同局だが、昨年はテレビ朝日に抜かれて3位に転落。フジテレビの黄金時代を築いた名物プロデューサーである亀山氏を抜擢した人事が、今年の株主総会最大の話題だ。亀山氏は80年に入社して主にドラマ畑を歩み、『ロングバケーション』『踊る大捜査線』などの人気作をプロデュースした。近年は映画事業部門に移り、『踊る大捜査線THE MOVIE』や『海猿』などテレビドラマの劇場映画版を次々にヒットさせ、昨年6月、常務に就任していた。
●低迷する視聴率と業績
フジHDは、2013年3月期決算で企業の実力を示す経常利益が前年同期比9.8%減となり、最終的な儲けである当期純利益も48.8%もの大幅な減益となった。日本テレビHDやテレビ朝日が増益となったのに比べて、ひときわ業績不振が目立つ。これは、フジテレビが視聴率競争で、日本テレビばかりでなくテレビ朝日にも抜かれて3位に転落し、フジテレビの放送収入が前年同期比2.1%の減収に終わったことなどが響いている。
フジHDとフジテレビにおける今回の社長交代は、事実上豊田氏の引責と受け取る向きは多いのだが、ある株主は会場で「経営不振は日枝会長にも責任があるのに、今回も会長に居座り続けるということで、まるでトカゲの尻尾切りだ」と話した。
日枝氏は1988年にフジテレビ社長に就任して以来、実に四半世紀・25年もの長きにわたってトップの座に君臨している。なお、フジHDとフジテレビの社長職に初めて異なる人物が就くことが決まったが、日枝会長だけはどちらの社でも会長職留任だ。日枝独裁体制が進むのではという批判の声は多い。
株主からの質疑でも「フジテレビはもう、時代に取り残されてしまったのでは」という視聴率低迷に対する不安の声は多く出た。
「短期的にはドラマ、中期的にはバラエティ、中長期的には報道情報番組をテコ入れしていく。4月の番組改編以降、1~3月期よりも視聴率は上がっているので、反転攻勢に向かっている」(太田副社長)というのが会社側の答えだった。
また、ある株主からはフジHDの総会の運営に対し、注文がついた。
「いろいろな総会に出ているが、他の企業は社長が議長をやっている。どうして毎年、日枝会長が議長をやっているのか。日枝会長自身への質問に、本人が答えないのはなぜか。他の会社の総会では、質問する株主の席まで係員がマイクを持ってくる。どうしてフジHDでは、株主がマイクスタンドまで足を運ばなければならないのか」
ここまで言われてもなお、日枝氏自身が答える場面はなかった。
●企業体質へ疑問の声も
ここ最近、フジサンケイグループは何かとマスコミを騒がすことが多い。例えば、牛丼チェーン「すき屋」などを運営するゼンショーHDが、フジHDから傘下の産経新聞の株式買収を持ちかけられたと「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/5月25日号)が報じた。しかし、ゼンショーが断ったため、この話は立ち消えになったという。太田副社長は「事実無根」と一蹴したが、株主は「ウソならダイヤモンドに法的措置をとるべき」と噛み付いた。
ある株主は次のように語る。
「昨年の総会の2日前、ニッポン放送の元人気アナでフジに転籍した塚越孝さんが、フジテレビ内のトイレで首吊り自殺をしました。直前だったため、さすがに総会で質問するのはためらいましたが、ニッポン放送からの転籍組は冷や飯を食わされていると聞きます。フジサンケイグループの内部は日枝さんの下でガタガタなんじゃないでしょうか」
昨年、映画『海猿』の原作者・佐藤秀峰氏が「『海猿』の関連書籍が契約書なしで販売された」とフジに激怒し「信頼に値しない企業」と批判。さらにツイッターで「フジテレビからアポなしかつ執拗な取材を駆けられた」ともつぶやいた。
佐藤氏にここまでダメ出しされてしまったフジは、視聴者やスポンサーに信頼してもらえるような企業に生まれ変わることができるのか。全社一丸となった視聴率回復に向けた取り組みに、注目が集まっている。
(文=編集部)