10月2日になって西川社長が会見し、無資格者が検査していたことを「国土交通省から指摘されるまで、まったく認識していなかった」と甘い管理体制だったことを認めた。それでも西川社長は「検査そのものは確実に行われており、安心・安全に使っていただける」と強調、「品質ではなく、あくまで手続きの問題だ」と主張した。さらに「9月20日以降は認定した検査員が100%行うようになった」と語った。西川社長は会見で深々と頭を下げることもせず、ユーザーの強い反発を招いた。
法令を軽視している点でいえば、三菱自動車の燃費改竄と同じ地平の問題だった。三菱自動車は燃費改竄問題で適切な手を打てず経営が傾き、日産の傘下に入った。
さらに不祥事が続く可能性
西川社長は、“汚れ役”をやりたがらないとの声もある。
「ゴーン会長は、スキャンダルが起こっても決して表に出ないことから、西川社長は自分もその路線でいいと思っている節がある。『なんで俺が(後ろ向きの)記者会見に出なきゃいけないんだ』というのが、西川社長の本音だろう」(日産元役員)
西川氏は前例踏襲型の官僚タイプだ。「上には弱く、下には強い」(若手幹部)と、社内でも評判が悪い。「求心力がない」というのが社内外の共通認識だ。
自動車業界に詳しいコンサルタントは、こう証言する。
「日産は危ないと思う。組織がダメだ。広報など事務部門は現場をバカにしている」
日産の稼ぎ頭は、米国日産だ。7月26日に発表した18年4~6月期連結決算は、純利益が前年同期比14%減の1158億円。完成車検査の不正の影響が国内で出たほか、米国の販売不振が誤算となった。4~6月の世界販売台数は3%減の131万台。米国は9%減の36.5万台となった。北米の利益は495億円で3%減った。ディーラーに渡す販売奨励金(インセンティブ)が高止まりし、値引き販売への依存度が高いのが特徴だ。
しかも、販売奨励金を出しても売れない。8月1日に日産が発表した7月の米国の新車販売台数は10万8792台で、前年同月比15.2%のマイナスだった。低迷は長期化する可能性が高い。
広報のキーパーソンの人事が話題に
4月1日付でグローバル広報担当のVP(理事)に昇格した濱口貞行氏が、業界関係者の間で話題になっている。
濱口氏は1980年、日産に入社。人事部を経て、90年から広報部。グローバルコミュニケーション本部国内広報部部長を経て、グローバルコミュニケーション本部ジャパンコミュニケーション部部長。18年2月28日付でチーフ・コミュニケーション・オフィサーに就任していた。
「不祥事が相次ぐ日産で、西川社長を支えているのは濱口広報部長。その大きな功績で執行役員に次ぐ理事(VP)職に就いた」といった話が、この春、自動車業界だけでなく広報担当者の間で広がった。
ただ、濱口氏をよく知るジャーナリストは、「『英語ができないのに、なんで俺がグローバル広報なのか』と本人が言っていたと人伝てに聞いた。今の日産にマスコミ対応ができる広報がいないので、定年を延長してでも彼が担当している。理事というポストは、役員ではないので形だけだ。論功行賞の人事とはいえないのではないか」と語る。
さらに濱口氏については、「ゴーン氏が日産に来た最初、面従腹背でソッポを向いていた」との証言もある。こう語る関係者もいる。
「まともな人。ゴマをするタイプではない。もともと濱口氏はゴーン人脈ではないので、西川社長は濱口氏の言うことを聞かない。彼に力があれば、西川社長をきちんと会見の場に引っ張り出せている」
つまり、“ミニ・ゴーン”と呼ばれている西川社長を守った論功行賞として理事になったわけではなさそうだ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は“やり手”だ。ルノー・日産の内情を熟知している。さらに、マクロン氏は若く、経済でも成果を出したいと考えている。
そのため、「ゴーン氏が交代するタイミングで、ルノーが日産を合併すると思う。日産は名実ともにフランスの会社になり、三菱自動車は捨てられる」(現地パリの自動車担当アナリスト)との見方も広まっている。
(文=編集部)