光男氏が千恵子氏をかばうかのような発言をしてしまったのが8月29日。翌30日に協会は対策会議を開き(塚原夫妻は欠席)、具志堅幸司副会長(ロサンゼルス五輪金メダリスト)が記者会見した。具志堅氏は、宮川選手に対する協会側からのパワハラという問題について第三者委員会を早々に立ち上げるとして、「できるだけ関係のない人に(調査を)お願いしたい」と話し、その結論も「10月中に」とはっきりしたゴールを示した。さらに「大変お騒がせしたことにお詫びを申し上げたい。パワハラがあったとすれば大変な問題。調査委員会の結果を待って、報告したい」と語った。
大きな告発を行った若干18歳の宮川選手に配慮をしつつ、事実関係は第三者委員会の調査を待つ、としたのである。協会のこの方針は納得のいくものであり、具志堅氏の会見での記者団との対応も真摯なものだったので、協会に対する信頼感を醸成した。
速見コーチの早々の復帰の道筋をつくるべき
第三者委員会が立ち上がると報じられた翌日、8月31日に今度は当事者である速見コーチが動きを見せた。無期限の登録抹消という厳しい処分を受け取った速見コーチは、指導者としての地位保全を求める仮処分を東京地裁に求めていた。ところが、その仮処分の申し立てを取り下げ、処分を受け入れると発表したのである。
宮川選手に対する暴力行為があったのは事実であるとし、「全面的に反省し、一刻も早く正々堂々と指導復帰を果たすことが選手ファーストだという結論に至った」と、書面で発表している。すると、宮川選手に対する指導、ひいては宮川選手の東京五輪への挑戦、出場はどうなるのだろうか。
私見を言えば、速見コーチへの処分は10月末で終了させるのがよい。つまり、塚原夫妻側からの宮川選手へのパワハラや朝日生命への引き抜き問題についての第三者委員会の判断を待って速やかに、ということだ。具志堅氏も会見で「18歳の少女が嘘をつくとは思わない」と語ったが、私も宮川選手の会見を見て、宮川選手の勇気と気概に打たれた。
暴力事件自体は両名とも認めているし、それは責められるべきだ。しかし、罪に対して罰というものはバランスが取れていなければならない。登録抹消を3カ月で終了するのが適当な展開となってきたと思うのは私だけではあるまい。
声を上げ始めた選手たち
宮川選手が行った反論会見は立派なものだった。弁護士に付き添われてはいても、その助言を途中で受けることもなく前を見て自分の言葉で話した。18歳の一選手という立場の女性がそれを行ったということで、大きな説得力を生み出した。
今年に入ってスポーツ界では不祥事がいくつも起こっている。しかし、その発端、展開には共通点がある。
・女子レスリングのパワハラ事件
五輪4連覇の伊調馨選手が、日本レスリング協会の栄和人強化本部長からパワハラを受けていたという告発状が出され、栄氏は辞任(告発状を出したのは本人ではなく関係者)。