・日大アメフト部の反則タックル事件
当事者である加害選手が会見を開いて経緯を説明
・水球女子日本代表が合宿を中断
水球男子日本代表の大本洋嗣監督が同チームを批判したことが発端
・日本ボクシング連盟の山根明会長辞任
連盟の組織員が反発。300人以上が会長批判に連名して会長を辞任に追い込んだ
今回の体操協会のパワハラ問題を入れれば、今年だけで5つも同じ構造の事件がスポーツ界を揺るがした。「同じ構造」とは何か。それは「造反有理」(謀反にこそ正しい道理がある)ということだ。
日本のアマチュア・スポーツ界では長く、長幼の功というか、先輩・後輩関係による上位下達的で封建的な組織や人間関係が醸成されてきた。体育会的な組織のなかで育ってくると、先輩やコーチ、監督にはやみくもに服従してしまうようになる。その延長線上で、協会などの組織が決定、運営していることについては、それを不合理、不適正と感じても従ってしまう。
13年に女子柔道強化選手が監督の暴力を告発するという事件が起こった。このときは全日本柔道連盟のトップが総辞任する大問題となったが、告発したのは15名の匿名選手だった。当時は声を上げるにしても一人では難しく、さらに複数人で勇気を出して告発しても最後まで匿名だった。この事件を振り返ってみると、今年はアスリートが顔を出してはっきり不合理を糾弾し始めた、画期的な年として記憶されることになるだろう。
今年のこの動きの引き金となった事件がある。それは昨年秋に勃発した「貴乃花騒動」である。暴力事件の被害者は弟子の貴ノ岩だったが、それを表沙汰にして大騒動にしたのが貴乃花親方だった。当初マスコミとコミュニケーションを取らなかったこともあって、むしろ批判、非難を浴びた親方だったが、断固として刑事事件に持ち込み、加害者の元横綱日馬富士を廃業にまで追い詰めた。現役トップの横綱、そして所属する組織である日本相撲協会を相手にして毅然として戦ったのである。
貴乃花親方のこの時の行動が、今年に入って他の競技団体で不当な状態に直面した選手や関係者へ、大きな勇気と示唆を与えたものと私は見ている。
アスリート・ファーストの流れは止められない
これからの時代、各競技団体の責任者は所属アスリートの扱いにこれまでにない注意が必要となる。声を上げ始めたスポーツ選手は、これからは問題があると認識したら告発するようなことをあまり厭わなくなるからだ。
私がすぐに想像できるのが、世界大会や五輪への派遣選手の選考過程である。討議・協議方式の選考は忌避されていくだろう。それは、いくら「過去の実績」、あるいは「国際大会での実績」などを考慮したとしても、結局は「主観の問題だ」という余地が残るからだ。選に漏れた選手がスポーツ仲裁裁判所に提訴したり、その延長線上として民事の損害賠償や名誉毀損を提訴することが予想される。
そんな時代になると、国際大会の派遣選手を決めるには、アメリカの多くの競技が実施しているように、特定の選考大会を決めて、泣いても笑っても一発勝負ということになっていく。私はそれが悪いことだとは思わない。アスリートに最善の練習機会(指導者の選択も含む)を与えた上で透明性を確保した競技こそが、スポーツの本来の姿であり、スポーツの偉大さを高めていく。時代は今年動き始めた。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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