一方、ヤマトホームコンビニエンスの直近の年間営業利益は5億円強なので、この子会社を廃業することによりグループ全体の利益は伸張するはずだ。それに、そもそもホームコンビニエンスは年間あたり8億円以上の過大請求をして問題となった。これを返金すると、引越し事業は現在でも赤字なのだ。
PPMセオリーからも引越し事業からの撤退がよい
「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」は別名「BCGマトリックス」などとも呼ばれる。そのセオリーを提唱したのが、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)だったからだ。
PPMは企業が扱う複数の商品や事業、特に事業の優先順位を示唆してくれる。縦軸にその事業が属する業界の成長率、横軸に自社のマーケット・シェアを取り、それぞれの指標で「高」「低」に2分すると4つの象限が出現する。
ヤマトグループの場合、「宅急便ビジネス」は、2つの指標とも高い、それも飛びぬけて高いので、PPMでは「Star:花形」という象限にプロットされる。
一方、「引越し事業」はどうだろうか。アップル引越センターのHP上に掲載された記事「『引越し市場は縮小!?』のウソホント(17年12月4日付)によれば、「引越し市場は縮小傾向にあります(といっても、およそ前年比99.2〜5%ですのでほぼ横ばいです、微減です)」という。少子化傾向から見ても妥当な推論だろう。
その引越し業界において、ヤマトホームコンビニエンスの「外部顧客に対する売り上げ」部門の年商(489億円)は、アートコーポレーション(991億円/17年9月期)とサカイ引越センター(807億円/18年3月期)に次ぐ規模であり、悪くない。
「市場の伸びは低い」かつ「マーケット・シェアは高い」という事業は、PPMでは「Cash Cow:金のなる木」象限に入る。このカテゴリーの事業にはあまり注力せず、そこから生まれる資金を「Problem Child:問題児」象限事業に提供して、もたついている「問題児事業」を「花形事業」に育て上げよう、というものだ。
ヤマトグループの問題は、次の「花形」に育て上げるような「問題児事業」が、グループ事業のポートフォリオに見当たらないことだ。とにかくグループ全体の売り上げの80%近くを「すでに花形」の宅配事業が占めてしまっていて、「問題児象限」に入っている事業はほとんどが宅配事業を補完、あるいはサポートする、相対的にはごく小粒な企業群にすぎない。次の「花形」となるような「柱事業」があるようには見えない。
だとすれば、同グループが取るべき戦略は、主力事業、それも突出して大きなパイを形成している宅配事業に、その経営資源を集中的に投入することだ。
セールス・ドライバーが絶対的に不足している。宅配便の個数は全体の市場としてはまだまだ伸びる。配達料金も改定に成功しつつあり、こんな事業をさらにドライブすれば、グループとしての業績は次の段階に行ける状況だ。
1959年に伊勢湾台風という大型台風が上陸し、各地に大きな被害をもたらした。近畿日本鉄道の鉄道網も寸断されたのだが、近鉄はそれを元に復旧することなく、大阪線と名古屋線に分かれていた2線を突貫工事で結合してしまったのである。「禍(わざわい)を転じて福となす」というか、経営者の機を見る明敏さと胆力が発揮された好例だ。
山内社長はもう一度謝罪会見を開き、ヤマトホームコンビニエンスの「廃業」を告げて大きな反省を示すのがよい。そして、謝罪に頭を下げたその陰で、そっと舌を出せばよいのだ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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