「雇い止めは無効の可能性」
福岡労働局は、すぐに調査に乗り出した。松永さんにも、2度電話で聞き取りがあった。結論が出たのは半年が経過した9月。福岡労働局は「雇い止めの理由が合理的で、社会通念上相当であると認められるかについて疑問」があるとして、河合塾に対し再度松永さんと話し合うように求める「助言」の文書を、河合塾に送付した。事実上の指導だ。
1カ月後、松永さんのもとにも、労働局から同じ文書が届いた。
福岡労働局の「助言」は、「雇い止めに客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その雇い止めは無効になる」と前置きしたうえで、松永さんの雇い止めに対して次のような見解を示している。
・2010年に労働契約書を結んでから毎年特に説明もなく契約更新が行われてきた。そのことを踏まえると、労働契約法19条第2項に該当する「雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」と認められる可能性が否定できない。
・雇い止めの理由は前年からの注意・指導にもかかわらず授業アンケート結果が改善されなかったためとされているが、双方の主張に隔たりがある。雇い止めに客観的理由と社会通念上の相当性があるかどうかについて、必ずしも明白ではない。
・無期転換ルールを意図的に避けることを目的として、無期転換申し込み権が発生する前に雇い止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないので、慎重な対応をお願いする。
ポイントは2つある。ひとつは、福岡労働局が、雇い止めの理由に疑問を呈しており、雇い止めが無効になる可能性を指摘していること。もうひとつは、労働契約法19条第2項によって、松永さんの契約更新が認められる可能性について言及していることだ。
河合塾は以前、契約書を交わさずに講師を勤務させていた。契約書をつくるようになった1995年以降も、業務委託のかたちをとっていたことが問題になり、2010年4月に就業規則が作られ、講師が雇用と委託を選択するようになった。
松永さんは雇用を選択し、それから毎年、7回にわたって雇用契約が更新されてきた。その事実から労働局は、松永さんには契約が更新される期待権が生じ、労働契約法19条第2項が適用される可能性があるので、河合塾には再度松永さんと話し合うようにと「助言」しているのだ。