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田中圭太郎「現場からの視点」

河合塾、講師を一斉雇い止め…労働局が指導「社会通念上、疑問」、無期雇用転換を阻止か

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
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河合塾の対応は「歩み寄れるものはない」

 松永さんは10月26日、首都圏大学非常勤講師組合とともに厚生労働省で記者会見した。

「私を雇っていた河合塾に対して、一定の警告が発せられたことは非常にうれしい。福岡労働局の指導が講師たちの雇い止めに歯止めをかけるものになればいいなと思います」

 前述の通り、雇い止めされたのは松永さんだけではない。現在、松永さんと同じく雇い止めされた講師1人が河合塾を東京地裁に提訴して、裁判が進められている。この講師の雇い止めの理由も「アンケートの結果が改善されない」というものだった。この裁判のなかで、17年3月に雇い止めされたのは14人であることが判明している。

 無期雇用への転換を申し込める時期を前にして雇い止めをされた人は、民間企業、大学、独立行政法人などにも多くいる。その雇い止めに合理的な理由がなく、社会通念上相当ではないと認められたときは、雇い止めは無効になると福岡労働局は見解を出したのだ。

 多くの大学と雇い止め撤回の交渉を進めてきた首都圏大学非常勤講師組合の志田昇書記長は、福岡労働局の見解を高く評価している。

「労働契約法19条の定めによって簡単に雇い止めはできないということを、労働局がはっきりと見解を示した意義は大きいと思います。河合塾のように、無期雇用への転換の直前に、何か別の理由をつけて雇い止めをした例は、大学でも少なくありません。今も駆け込みで雇い止めがいろいろなところで起きています。福岡労働局の文書は、不当な雇い止めに対してかなりの効力を持つのではないでしょうか」

 これまで無期雇用への転換をめぐっては、東京労働局が17年2月に、休職期間を置くことで継続して契約した期間をリセットするクーリングは認められないという見解を出している。また17年12月には長崎労働局が、契約期間が5年上限であることを理由に雇い止めすることは、改正労働契約法の趣旨に反するという見解を出した。いずれの見解も無期転換を避けようとした雇用者側を指導するもので、結果的に雇用者側は是正に応じている。

 では、河合塾の対応はどうだろうか。無期転換を阻止しようとして松永さんを雇い止めしたのではないかと河合塾に質問すると、広報担当者は否定した。

「無期転換を避けることを目的として雇い止めしたことはありません。今後も行うつもりはありません」

 では、福岡労働局の「助言」をどのように受け止めているのかと聞くと、次のような答えが返ってきた。

「助言を労働局から受けたのは事実です。松永さんの主張と当方の認識は異なっており、これ以上話し合いで歩み寄れるものはないと、福岡労働局にはお伝えしました」

 河合塾は「助言」に対して「歩み寄れるものはない」と回答し、今のところ指導に応じる気配を見せていない。松永さんと非常勤講師組合は、引き続き河合塾に交渉に応じるよう求めている。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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