過去5年間、有力機械メーカーのファナックの株価は、中国の景況感を敏感に反映してきた。それは、同社が中国での制御装置やロボットなどへの需要拡大を取り込んできたことの裏返しだ。
ファナックの業績に大きな影響を与えた要素に、IT先端技術を用いて2025年に世界最高水準の生産能力の実現を目指す中国政府の取り組み(中国製造2025)がある。それが、ロボットやコンピューター数値制御(CNC)などへの需要を高め、ファナックの業績拡大を促進した。
中国がネットワーク・テクノロジーの活用を重視した背景には、スマートフォンの登場によってIT先端技術の応用が容易になったことがある。スマートフォンは、私たちの生活をも大きく変えた。今や、サッカーの試合やドラマをスマートフォンで楽しむことは当たり前になっている。
スマートフォンという“ヒット商品”の登場は、個人、企業の行動を劇的に変えたのである。それがあったから、IoT(モノのインターネット化)を重視する企業が増え、制御装置やロボットへの需要も高まった。
17年以降、世界全体でスマートフォンの出荷台数は頭打ちだ。これは、ヒット商品が見当たらなくなっていることを意味する。その状況のなかで、ファナックの業績がどう推移するかは、わが国の経済動向を考える上でも重要だ。
ここへきての中国経済の急減速
ファナックの事業構造はコンピューター数値制御(CNC)を中心とするFA(工場の自動化に関する)部門、ロボット部門、ロボマシン部門、サービス部門からなる。CNC事業は世界シェアの50%程度を押さえ、ロボット分野でもスイスABBなどと並ぶ大手だ。
2018年度第2四半期、売上高(連結ベース)に占める割合を見ると、CNCを中心とするFA部門は売上高の36%、ロボット部門が33%を占める。現状、FAとロボット部門が同社の収益の柱といってよい。
17年度まで、FAおよびロボット部門の売上高は増加基調を維持した。しかし、18年度に入りこの2つの部門の売上高は減少している。第2四半期、FA部門の売上高は3.5%減少し、ロボット部門は9.8%減少した。
その背景にあるのが、中国での売上高の落ち込みだ。第2四半期、中国での売上は前期比42%減少した。米中貿易戦争への懸念などから中国の企業が設備投資を先送りしていることなどが影響している。また、欧州事業の売上高も7.5%減少した。欧州事業の業績悪化は、中国経済に大きく影響されているはずだ。ドイツを中心にEU各国は中国との関係強化を重視してきた。それに伴い、独自動車メーカーを中心に中国ビジネスを強化する欧州企業が増えた。中国経済への不安が高まるなか、先行きを慎重に考える欧州企業が増えるのは当然だ。