一連の動きについて、日産は首相官邸と綿密に連絡を取っていたといわれている。ゴーン氏逮捕の翌日には川口均専務執行役員が首相官邸を訪ね、菅官房長官と面会した。世耕弘成経産相でないところがミソで、日本政府がこの問題の処理に、いつにもまして慎重になっていることを示している。川口氏は菅長官に面会後、取材に応じ、「日本とフランスの関係もあり、両国の関係が保たれるよう政府としても見ていただければと思う」と語った。
日本政府はあくまで“事件”として処理したいわけだが、「推定無罪」と述べたルメール仏経済・財務相が11月22日(フランス時間)、大阪万博関連でパリを訪問中の世耕経産相と会談したのは仏政府側が焦っているからだ。フランスの失業率はここ数年、10%前後と高止まりしている。ルノーが日産の利益を吸い上げる構図が少しでも変化すれば雇用問題の悪化に直結する。ルノーの利益の約半分は日産からの配当金。日産のおかげでルノーは食いつないできたといっても過言ではない。
ゴーン氏が日産から掠め取ったとされる金額は、有価証券報告書に役員報酬を過少記載した分が8年間のトータルで80億円。これとは別に株価連動報酬(SAR、ストック・アプリシエーション・ライト)の40億円が有報に記載されずに付与されている。これから10年あまりにわたり、分割して80億円がゴーン氏に支払われることになるのか。SARを加えた120億円の支払いがプールされているのか。不透明な部分は残る。ゴーン氏と一緒に逮捕された最側近のグレッグ・ケリー氏(前代表取締役)に接見した関係者によると、現時点では支払いの名目がコンサルティング料か顧問料かなども決まっておらず、ゴーン氏は実際に支払いも受けていないと述べているようだ。ちなみに司法取引したのは、専務執行役員と日本人の秘書室長とみられている。
“ミニ・ゴーン”といわれている西川氏の首筋が寒くなっていた。2019年3月期の減益幅がこれ以上大きくなれば解任といわれていた。「ミニ・ゴーンが御大のゴーンを刺した」という声もあるが、記者会見で「クーデターなのか」と西川氏が聞かれたのはこうした背景があるからだろう。
「当初、2010-14年度の報酬の過少記載でゴーン氏が逮捕されたのは、西川氏が社長兼CEOに就任した2017年4月1日という日時との兼ね合いだ」(法曹関係者)
22日の日産の臨時取締役会では、ルノー出身の2人の取締役はテレビ会議で参加した。会社側がこの2人に微に入り細を穿って説明したため、時間がかかった。「ゴーン氏の処遇に関して日産もルノーと同様に判断をすべきだ。疑わしきは罰せず、だ」とルノー側は主張していたため、2人が臨時取締役会を欠席するのか、出席して徹底抗戦するのか、などネガティブな風聞が飛び交っていた。
ライブドア事件を指揮した元東京地検特捜部長、大鶴基成弁護士がゴーン氏の弁護士に選任された。東京地検特捜部に喧嘩を売るわけで、誰が大鶴氏に頼んだのか。ルノー側も弁護士選任に関与している。ほかにも数人、選任されることになるとみられている。
(文=編集部)