外部と遮断された勾留は原則20日(まず、10日間の勾留が続き、やむを得ない場合に限りさらに10日間延長が認められる)であり、刑事訴訟法は起訴後の保釈請求を原則として「許さなければならない」としているが、これを延長する手段がある。刑訴法208条の2にある「特殊な重大事件ではさらに通じて5日を超えない限度で勾留期間を延長することができる」である。追送致された件で再逮捕して身柄拘束をさらに長引かせるという手段があるが、これらは自白を強要する圧力であると人権団体から批判されている。事実、村木元局長は徹底的に容疑を否認したので、拘束はなんと164日に及んでいる。
人権侵害という批判を、これまで日本の検察は意に介さなかった。しかし今回、容疑の否認によっ村木元局長のように2人の勾留が長期化するとなると、フランスとアメリカから批判が一気に高まる可能性が高い。実際、フランスではすでにゴーン氏勾留への批判の声が高まっている。ゴーン氏の報酬が高額すぎると非難するルノーの労働組合幹部さえも、日産の内部調査に疑問を呈している。
ゴーン氏は日本を超えた最強の弁護士・アドバイザーの布陣で裁判に臨み、日本に閉じたかたちでは裁判を行えないようにする可能性も高いが、検察がこれに対応できるかは極めて疑問である。想定通り、ゴーン氏はアメリカの著名法律事務所と契約したと米誌が報道している。日本の主権を盾に、「日本に本社のある企業で起きた問題なのだから、日本の勝手です」ではすまされるはずはなく、対応次第では、日本の刑事司法システムの前近代的な現状を世界に知らしめることになる。
つまり、検察側の勝算も怪しいまま裁判は世界の注目のなかで長期化する。これは、検察にとって想定外の大きな試練になるのでないか。まさに、日本しか知らない特捜部がパンドラの箱を開けてしまったということである。しかし、もはや後戻りはできない。世界で最も個人の人権にうるさいフランスをわざわざ敵に回す今回の逮捕は、たとえゴーン氏を起訴して有罪にできたとしても、その過程で検察が死守したい日本の刑事司法システムのあり方を変えざるを得ないという墓穴を掘る結果になるかもしれない。
ゴーン氏が、国策捜査といわれたライブドア事件を特捜部長として指揮し、特捜の捜査の手法を熟知している大鶴基成弁護士を弁護人としたのは興味深い。
次回は、今回の特捜による立件の過程を見てみたい。詳細にみると奇妙なことが浮かんでくる。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授、フランス・トゥールーズ第一大学客員教授)