なお、この話は過去の司法試験にも出題されるほど問題視されていることなので、学者さんによっては「けしからん!」と憤る方もいらっしゃるかもしれませんが、やりすぎ、狡猾、卑怯かどうかはともかくとして法律上は違法ではありません。
次に、「西川社長が今後逮捕される可能性もある」かどうかですが、確かに「会社として虚偽の有価証券報告書を提出していた最終責任者は西川社長」であることは事実ですが、中小企業なら社長は会社の中で起きていることすべてを知っているでしょうが、日産のような巨大企業において、すべての書類に対し目を通して実質的な決裁をしているとは考えられません(形式的には決裁はしているでしょうが)。
とすると、「虚偽記載」について、将来の裁判において検察側が西川社長の故意を立証することは難しいでしょう。というわけで、西川氏の逮捕・起訴はないと思われます。
最後に、特別背任罪についてですが、日産内の捜査はほとんど終わっている状況と考えられるので、今の時点で話に出てこないということは、特別背任罪での立件は考えていないのかもしれません(立件が難しいから)。
もっとも、今後、マスコミで騒がれているように、「役員の報酬」についての虚偽記載が、はたして「重大事項の虚偽記載」なのかどうかという点は、確かに争点となります。
頭のいい検察ですから、あえて争点となるような罪で先行して逮捕したのは、ひょっとすると、これを“別件”として身柄を確保し、その取調べ中に特別背任なども捜査するという、お決まりの手法なのかもしれません。
とはいえ、私は、最終的にはやはり脱税の点で挙げられる(逮捕・起訴)と思います。
古今東西、悪いことをしているのは確実なのに、証拠の点でどうしても挙げられないときは、例えばアル・カポネなんかも、最後には脱税で挙げられているのです。
有価証券報告書の虚偽記載は重罪です。これにあわせて脱税も重なれば、実刑が言い渡される可能性はとても高いと思われます。
(文=編集部、協力=山岸純/弁護士法人ALG&Associates執行役員・弁護士)
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。弁護士法人ALG&Associates執行役員として法律事務所を経営し、また同法人によせられる離婚相談、相続問題、刑事問題を取り扱う民事・刑事事業部長として後輩の指導・育成も行っている。芸能などのニュースに関して、TVやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。弁護士としては、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験を様々な方面で活かしている。