またしても“ガラパゴス日本”の象徴的出来事が起きている。フランス人の大物カルロス・ゴーン氏の逮捕なので、日本人はさぞや世界中で盛り上がっていると思っているであろうが、筆者の知る限り盛り上がっているのは日本だけという状況である。筆者は現在フランスの大学の客員教授として同国在住であるが、ご当地では、まったく盛り上がっていない。
東京地検特捜部が11月19日、夕刻に羽田空港に着いた日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏に任意同行を求め、午後8時に金融商品取引法違反の疑いでゴーン氏を逮捕したと発表した。以降、新たな事実が判明するたびにメディアを賑わせているが、ゴーン氏について、職業人の域を逸脱して、本人の私生活にまで及んで、あることないことを粗探ししている状態である。今回の件のワイドショー化は、筆者にはかなり異常に思えるのだが、成功者といってさんざん持ち上げたあとに引きずり降ろして足蹴にするのは、日本社会の典型的な行動である。俗にいう集団的掌返しである。
ことの重大性を否定する気はまったくないが、欧米居住経験者として見るに、まだ起訴でもなく、当然有罪が確定したわけでもないので、一斉にゴーン氏を有罪の悪人、人格に問題のある人物のように扱う世論には強い違和感がある。
日産の西川廣人社長は、日本的形式に則り国民感情を考慮して、19日の逮捕後早々にゴーン氏を会長職から解任する意向を表明し、22日の取締役会で正式に解任した。一方、ゴーン氏が会長兼CEOを務める仏ルノーの取締役会は20日、ゴーン氏を解任せず、会長・CEOとして留任させると発表。逮捕されて身柄を拘束されているので、フィリップ・ラガイエット社外取締役を会長代行に、ティエリー・ボロレCOOをCEO代行に任命している。ルメール経済・財務相も言うように、推定無罪という法治社会の原則に則った冷静な処置である。
ある日本の新聞は、「取締役会がゴーン容疑者の解任を見送ったのは、ルノーの筆頭株主であるフランス政府の意向に配慮したためとみられ」と報じたが、これはまったくの憶測である。ルノーの判断の背後にあるのは、ルメール経済・財務相も述べているが、推定無罪の原則である。推定無罪とは「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という、近代法の基本原則だが、日本ではまったく機能していない。逮捕された人物は犯罪者とみなされる。この推定無罪が機能しない状態は、他の先進国からみると極めて異様、前近代的である。