ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 日本と香港を股にかけるアングラ人脈  > 3ページ目
NEW
高橋篤史「経済禁忌録」

日本と香港を股にかける“アンダーグラウンドの人脈と金脈”

文=高橋篤史/ジャーナリスト

複雑な資金取引

 じつは、事件は意外な方面と接点がある。17年春に勃発したユニバーサルエンターテインメントの追放劇がそれだ。事の発端は創業者の岡田和生前会長をめぐる不透明な会社資金の流れ。じつはそれを遡っていくと、佐戸被告が深く関係しているのだ。

 始まりは13年2月のことである。岡田前会長の香港における資産管理会社「オカダ・ホールディングス」はある会社に18億円を貸し付けた。相手はジャスダック上場企業SJI(現カイカ)の香港法人。利息は年15%、期限はその年の8月末とされた。岡田前会長とSJI創業者で中国出身の李堅元社長をつないだのは、のちにユニバーサルエンターテインメントの監査役に就任する荒井裕樹弁護士だった。

 しかし、返済は滞った。そこで14年10月になり別の取り決めが交わされる。オカダ・ホールディングスは現金のかわりに4120万香港ドル分(約5億6000万円)の債権をSJI香港から受け取ることになったのだ。要は代物弁済である。その債権で債務者となっていたのは「ダイマジン・グローバル」なる香港企業。その株主であり唯一の役員を務めるのが佐戸被告だったわけである。

 じつのところ、SJIの李元社長はストリームの劉元社長以上に借金まみれだった。05年頃から金融ブローカーにカネを借り始め、10年頃にその額は30~40億円にも上っていたとされる。そんななか、佐戸被告と接点を持ったようだ。08年12月、2人は共同で都内に「マルマーレ」なる会社を設立している。遅くともその頃までにはかなり深い関係にあったとみられる。借金で火の車の李元社長はSJIを舞台に機器取引をでっち上げ、それに乗じて資金を繰り回していた。SJI香港がオカダ・ホールディングスから18億円を借りたのもその一環だった。

 佐戸被告はフィクサーとも称される人物の子息を頂点とする新興仕手グループの一員と目される。その後の10年10月には経営混乱中のリミックスポイントに入社、同社はストリームと提携し、劉元社長を取締役に迎え入れるなどした。また、佐戸被告は翌11年8月に経営破綻した安愚楽牧場でもなぜか幹部として登場。同社は和牛預託商法で一般投資家から数千億円を集めながら行き詰まり、当初は民事再生手続きで借金だけをカットしてもらおうと虫のいいことを企んでいた(のちに破産手続きに移行)。

 会社を追われた岡田前会長は佐戸被告の素性などについて「名前も記憶になく会ったこともない」としている。それはともかく、債権譲渡の合意書が交わされた14年10月はストリームの相場操縦が行われた時期と近接している。李元社長にカネを貸す側だったはずの佐戸被告が相場操縦や件の債権譲渡のときには李元社長に対し債務を負う側にあったわけで、それだけ当事者間では複雑な資金取引が繰り返されていたものと推測できる。

 この後、オカダ・ホールディングスは14年11月、李元社長に1億3500万香港ドル(約20億円)を別途、無利息で貸し付ける契約を交わしている。翌15年3月、ユニバーサルエンターテインメントは香港子会社を通じ、李元社長が英領バージン諸島に設立した「ゴールドラック・テック」なる会社に1億3500万香港ドルを貸し付け。それを元手にゴールドラック・テックは先の借り入れのうち1億3000万ドルをオカダ・ホールディングスに返済している。結果、ユニバーサルエンターテインメント側の貸付金は焦げ付いた。

 この件が理由の一つとなり岡田前会長は17年5月、取締役としての権限を一時停止され、そのまま会社を追われることとなる。18年7月、一連の20億円の資金取引をめぐってマネーロンダリングの嫌疑をかけられた岡田前会長は李元社長とともに香港の汚職捜査機関に身柄を一時拘束された。体調不良を訴え1日で保釈されたものの、今も香港当局による監視下にあり捜査は続いている。

 今回、有価証券届出書の虚偽記載が明らかになったように、深い霧が立ちこめるアングラ経済の実態や、そのぬかるみに嵌まった元ワンマン経営者との関係性に光が当たることになるのか――。これから本格化するストリーム事件の公判に注目したい。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

日本と香港を股にかける“アンダーグラウンドの人脈と金脈”のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!