事前に質問状を提出した創業家筋の武田和久氏やOBら約130人でつくる「武田薬品の将来を考える会」(持株比率1%)は、買収の検討が明らかになった18年3月以降、財務リスクを理由に一貫して買収に反対してきた。臨時株主総会を目前にして、「武田薬品最後の創業家社長だった武田國男氏も反対している」と発表。臨時株主総会2日前には武田和久氏が外国特派員協会で記者会見し、買収反対を力説した。
「考える会」は反対したが、株主の過半を占める機関投資家が賛成し、株主の3分の2以上の同意を得た。シャイアー買収のために発行される普通株式の募集事項を取締役に委任する議案は89.13%の賛成で可決した。
19年1月8日、武田薬品はシャイアーを完全子会社とし、年間売上高が3兆円超とメガ・ファーマが誕生した。
買収後の焦点は「のれん」の減損テスト
一方、巨額買収で財務の健全性は悪化する。本業の収益力を示す指標として海外投資家が重視するEBITDA(税引き前利益+支払い利息+減価償却費)に対する純有利子負債の倍率は2倍弱から5倍に悪化する。
シャイアーの純利益率は28.2%で、武田薬品の9.0%を大きく上回る。これは世界の製薬業界でもトップクラス。低収益にあえぐ武田薬品の収益力の強化につながる。シャイアーのEBITDAは約7300億円で、武田薬品の約2倍という高収益企業なのだ。
投下した資金を買収先企業の何年分の利益で回収できるかを示す「EV/EBITDA倍率」は11倍。製薬業界のM&Aは13~14倍程度といわれている。シャイアー買収を「武田薬品がグローバル製薬業界になるための好機だった」と捉えたウェバー氏の決断を評価するアナリストは少なくない。
ウェバー氏は、2023年3月をめどにEBITDAに対する純有利子負債の倍率を買収前とほぼ同じ水準の2倍程度まで圧縮する方針だ。そのために武田薬品本体の収益力のアップを急ぐ。まず着手するのが、最大の収益源になると期待する米国事業の拡充。さらに、最大100億ドル(約1兆1000億円)規模の非中核事業の売却も検討している。
話題を集めそうなのが「アリナミン」に代表される大衆薬部門の売却だろう。もし、同部門が売りに出されれば、製薬会社や投資ファンドの争奪戦になると予想されている。
武田薬品が採用する国際会計基準では、のれんの定期的償却は不要だが、減損テストを毎年実施する必要がある。海外企業を巨額買収した日本企業が減損テストによって多額の損失を出したケースは多々ある。それが海外大型M&Aの落とし穴だ。
シャイアーののれん(4兆~4兆4000億円)や無形資産(6兆3000億~6兆7000億円)の減損リスクは無視できない。格付け会社が格下げし、株価が下落した理由だ。
ウェバー氏は株価を押し上げる具体的な施策を打ち出せるのか。19年は「選択と集中」の実行力が試される年になる。
(文=編集部)