百田尚樹『日本国紀』は世紀の名作かトンデモ本か


 特に古代史については、応神天皇が熊襲だとか、継体天皇で皇統が入れ替わっている可能性が強いといった万世一系の否定、統一国家成立時期を戦後史観の学者よりさらに遅く見ているなどの点は、どうしてそういうことになるのか少し理解しにくいところがある。

 そういう意味で、これは歴史小説としてならいいが、通史としては体を成していないともいえる。

“百田史観”は日本人の満足重視、“八幡史観”は国益重視

 一方、私が書く歴史は、世界に対して日本の立場を最大限に理解してもらい、国益を追求するためのものだ。特に、「最強シリーズ」(『日本と世界がわかる 最強の日本史』『世界と日本がわかる 最強の世界史』『韓国と日本がわかる最強の韓国史』『中国と日本がわかる最強の中国史』<いずれも扶桑社〕>)は、“世界の中で、日本国家が欧米などに対して自己主張を無理なくするにはどうすればいいか”が主たるテーマであって、反欧米色は弱い一方、中韓にはもっと厳しいし、日本国家の政治外交的利益が前面に出たものだ。「日本人なら、外国人にこう説明すべきだ」という観点から書いている。

 たとえば、中国や韓国との関係では、どうせ中国人や韓国人の賛同など得られないだろうから、欧米人など第三者の理解を得られるように、無理な正当化は避けつつ、その条件下で最大限に日本の立場を擁護しようとしている。

 そうすれば、中国人や韓国人も言いたい放題の弊害を悟り、少しは大人しくなるだろうというものである。

 もちろん、私の書く本によっては、たとえば、「フランス人はこう考えている」とか、「中国人はどうだ」ということを日本人に紹介したいとの視点のものもあるが、それも最終的な目的は、日本人が国益の増進を図り、外国に対して適正に主張していくための参考とすることだ。

 もちろん、首尾一貫性は執拗なほど確認し、十分に確保している。

戦後史観による教科書の悲惨

 これに対して、文部科学省の定める教科書検定基準に基づいて書かれている歴史教科書では、日本政府の公式見解もきちんと教えられないし、現行憲法で世襲による天皇制を取りながら、歴代天皇についての系図や、国の成り立ちについての物語も一部の教科書においてのみ、紹介されているにとどまる。

 なにしろ、神武天皇の建国は神話としての扱いであり、実質的な建国者とみられる崇神天皇や、統一国家の樹立者である神功皇后や応神天皇など推古天皇より前の天皇は、その名さえ紹介されていない。

 かろうじて仁徳天皇の名が、その御陵について、一部の教科書で「大仙古墳(伝仁徳天皇陵)」というかたちで登場するだけだ。

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