原油価格下落、消費増税迎える日本経済に“想定外の恩恵”…国内所得、約3兆円増加も
また、原油価格と我が国の交易利得(損失)には強い相関がある(資料5)。交易利得(損失)とは、一国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出入の損失を示す。
そしてこの関係に基づけば、原油先物価格が10ドル/バレル下がると、年換算で1.6兆円の所得の国外流出が減ることになる。一方、2018年10-12月期の原油先物価格は2018年7-9月期の平均より約5.7ドル/バレル低下しているため、2018年10-12月期の交易利得は年換算で+0.9兆円程度増加する可能性がある。これは、原油先物価格の下落により、2018年10-12月期の3カ月間で約2,335億円の所得の海外流出が抑制されたことを意味する。
またこの関係から、今年の原油先物価格が70ドル/バレル程度で推移すると仮定すれば、今年の所得の海外流出は昨年とほぼ変わらないことになる。しかし、今年の原油先物価格が平均60もしくは50ドル/バレル程度で推移すると、今年はそれぞれ+1.6兆円、+3.2兆円も国内所得の増加が生じることになる(資料6)。
近年は経済のグローバル化や市場の寡占化が進展しており、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっている。特に新興諸国の経済成長率における寄与度が高まった2003年頃から、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用している。このため、今後も世界経済の低迷が持続すれば、世界の商品市況は上がりにくい環境が続くことになろう。特に今後は、米国の減税効果が一巡することが予想され、世界の原油需要はさらに減少する可能性もある。従って、今後もしばらくは原油先物価格が低水準で推移する可能性もある。
これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々にとって、資源国への所得流出が抑制されやすい環境にあることを意味する。特に人口減少等により国内市場の拡大が望みにくい我が国では、今年は消費増税も控えていることもあり、こうした所得の海外流出の減少が、地方や寒冷地の経済を中心に思わぬ恩恵となる可能性がある。従って、世界経済が低迷を続ける限り、資源の海外依存度が高い日本経済が資源価格下落の恩恵を相対的に受けやすく、日本経済はこうしたビルトインスタビライザー機能を有しているといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)