それでもヒールが憧れとなる理由
それでもヒールが憧れの対象となる理由はいくつかある。女性には自明だが、男性読者向けに少し解説させていただくと、まず、デザインの豊富さだ。ヒールと一口にいっても、靴底すべてがヒールとなっているウェッジソール、太いヒールで力強い印象を与えるチャンキーヒール、地面へ針を突き立てるように細いピンヒール、ルイ15世の時代に流行したことで知られる付け根が太いルイヒールなど、デザインに無限の可能性がある。
そのデザイン性の高さから、シューズデザイナーはこぞって新しいデザインを切り開いてきた。だからファッショニスタであればあるほど、ヒールは魅力的に映る。ファッションや美容業界では、ユニセックスな男性がヒールをおしゃれの一環として選ぶほどだ。
そして脚が細く見えることも、ヒールだけができることだ。ヒールを履けば、単純に「脚」ととらえられる部分が長くなる。脚の長さが伸びれば、そのぶん脚は細く見えるのだ。特に身長が低い、足が短いといった悩みを持つ女性ほどヒールに憧れる。
「でも痛すぎて履けない。職場で強制されたら耐えられない。でも履きたい気持ちはある」
これがヒールを望む女性が抱えるジレンマである。
企業努力による「痛くないヒール」の登場
シューズメーカーも、この状況をただ手をこまねいて見ていたわけではない。憧れのヒールへ手が届くよう、さまざまなヒールが生まれてきた。
大手百貨店のマルイは『ラクチンシリーズ』と称し、履き心地のよいヒールを提供している。2010年に発売以来、累計370万足を売り上げた大ヒットシリーズとなった。卑弥呼の『ウォーターマッサージ』、三越伊勢丹の『エヌティ ユアパンプス』など、履き心地を売りにしたヒールが次々に登場している。
だが、筆者による消費者調査では、いずれもあまり芳しい結果を得られていなかった。ある20代女性はこう語る。
「いまの楽なヒールって、どれもデザインがダサすぎるか、足が結局痛くなるかでした。コンフォート、楽ちんなんて言われても、どうせ長時間履いていたら痛くなっちゃうんです。最近はそんなものかな、ってあきらめてヒールはなるべく履かないようにしてます。結婚式みたいに、どうしようもないときは式の途中だけ履いて、終わったらすぐフラットに履き替えてますね」