中東・北アフリカ地域では昨年後半から経済状態の悪化に対する抗議運動が広まっており、中東メディアは2011年に発生した「アラブの春」が再来する可能性を報じている。
当時サウジアラビアをはじめとする湾岸産油国は、潤沢な原油収入を財源にして「大盤振る舞い」を行ったことで「アラブの春」の自国への波及を食い止めたが、今後「アラブの春」と同じ状況が生じた際に、サウジアラビアが再び「対岸の火事」でいられる保証はない。ムハンマド皇太子の「悪政」のせいで王族内の足並みが乱れるサウジアラビアで「アラブの春」が勃発すれば、史上最悪の「石油危機」となる恐れがある。
日ロ協調の道
エネルギー安全保障の要諦は「供給源の多様化」である。
1990年代以降日本への原油の供給元は減少する一方だったが、21世紀に入りロシアが原油パイプラインを極東地域に敷設したことから、日本にとって原油獲得の選択肢が広がった。ロシア産原油の日本でのシェアは一時10%近くまで上昇し、その後5%に低下しているが、中東産原油の代替として大きな潜在能力を有している。日本では米国産のシェールオイルに注目が集まっているが、米国がいまだ原油の純輸入国であることを考えれば、安定した供給元になる可能性は低いといわざるを得ない。
原油以上に魅力的なのはロシア産天然ガスである。筆者をはじめエネルギー関係者にとってサハリン産天然ガスをパイプラインで北海道をはじめとする日本に供給する構想は長年の悲願である。北海道との距離がわずか42kmにすぎないサハリン島の天然ガスを生ガスのままパイプラインで供給し、主要地域で分散型地域熱電供給システムを構築すれば、冬季も北欧並みの「快適な生活」が送れるようになり、北海道の「観光資源」のさらなる有効活用が図られるというメリットははかりしれない。
本構想は、かねてから「インフラで両国をつなげたい」としているプーチン大統領の意向に沿うものであることから、エネルギー経済面に加え、膠着気味となっている日ロ間の交渉を大きく前進させる切り札になるのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)