カネに困った人間の心理状況とはこんなものなのか、創業者はできるだけ多くのリクルート株を買いたいとの一心だった。4月9日、西日本商務は嘯月美術館に対し1億円を追加で送金。さらに追加購入しようと、創業者は指南役の元税理士から1億5000万円を借り入れ、うち1億円を持参用の小切手に換えて次の会合に備えた。
そうして迎えた4月16日、約束していた大丸東京店の喫茶室に行くと、河西元会長が現れた。が、おかしなことを言い始める。事情があって譲渡ができなくなったというのだ。代わりに出てきたのは科学関連を思わせる会社の名刺を持った見知らぬ人物。河西元会長の代わりにこれまで預かった1億2000万円を返済するとの「念書」をなぜか自主的に差し出してきたという。
事ここに至り、ようやく創業者はこの譲渡話のいかがわしさに気づいたようだ。その後、強く返済を迫ると、河西元会長は前言を翻し、リクルート株譲り受けには最低でも5億円が必要と言い始め、追加の資金拠出を求めてくる有り様だった。結局、河西元会長はその後ものらりくらりと逃げ回り、カネは戻らずじまいだった。
哀れ西日本商務は17年1月に破産の憂き目に遭う。関係会社を含め負債は約14億円に上った。ちなみに指南役の元税理士は前年6月に脱税事件でお縄となっていた。河西元会長に対し民事・刑事の両面で厳しい法的措置に及んだのは破産管財人である。
各地で同様の詐欺話
さて、河西元会長が手を染めたリクルート株詐欺だが、直接の関係性は不明であるものの、その後も各地で同様の詐欺話が出没中だ。話を持ち掛けられた関係者が昨年7月に作成したメモによると、こんな具合らしい。
この話ではリクルート株をひそかに持っているのは財務省という設定。ちょっとひねりが効いているのは分割前の旧株という点だ。新株にすると全部で1800万株。これを3回に分けて割安価格の1株1400円(新株換算)で購入するスキームらしい。
まず1回目は300万株・42億円。これを市場株価の12%ディスカウント価格で野村證券(もちろん嘘)にブロックで買ってもらう。現在値3000円として粗利はざっと37億円。あとはこれの繰り返しだ。2回目は600万株・84億円、3回目は900万株・126億円といった塩梅である。税金やコンサルフィーを除いても手元に133億円が残るという。1回目取引の大金さえ用意できれば、その3倍儲かるというわけである。