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高橋篤史「経済禁忌録」

リクルート株詐欺事件が発生…容疑者が逮捕、巨額の金を騙し取る手口の全貌

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 ただし、注意が必要なのは仲介業者への手数料が別途必要という点。おそらくここらあたりで詐欺グループは色々と口実を付けカネを騙し取っていく算段なのだろう。関係者によると、この話を持ち掛けられたなかには過去に大型脱税事件で逮捕され服役までしたシステム開発会社創業者もいたという。

 昨年秋、これと似た話が出てくる「告訴状兼告発状」のコピーが出回ったことがある。被疑者にはずらり7人もの名前が並ぶ。そのなかには日本大学の親密企業(昨年破産)として一時注目された会社の代表者も登場する。被害者は財務省に眠るリクルート株の割安購入を持ち掛けられ、復興支援金名目の預託をしなければならないなどと指図され、最後、カネを騙し取られたという。

 もっとも、被害者が詐欺グループメンバーに手渡した額面50億円もの小切手を、メガバンク本店がすんなりと口座に受け入れていたり、その後、同メンバーが1週間足らずですべて現金で引き出しているなど、マネーロンダリングに厳しい今のご時世では信じがたい記述も件の「告訴状兼告発状」には少なくない。鵜呑みにはできない代物だ。

 むしろここで注目したいのは、なぜ「告訴状兼告発状」というセンシティブで本来は秘匿性が高い資料が出回っているかという点である(取材の結果、当局に提出されていないことが判明している)。おそらく資料を流出させた何者かは、それによりなんらかの資金獲得を狙っているのだろう。被害者側が加害者側に圧力をかけるためとは限らない。別のカモを信じ込ませる演出かもしれないし、もっと別の事情を抱えた関係者に対する揺さぶりの可能性もある。

リクルートが詐欺の「商材」になりやすい理由

 要はリクルート株を「商材」とする詐欺話の周囲では日々、キツネとタヌキの化かし合いが展開されているのだ。おそらく詐欺グループはひとつではないし、騙された者が別の人間を騙したりもする。他の犯罪収益金をさらに増やそうと欲をかきまんまと騙されるケースもある。

 未公開株詐欺の「商材」は、誰でも知っている超大手企業か、実体のないベンチャーかの2通りだ。前者の代表格がリクルートで、かつては大塚製薬(現大塚ホールディングス)やDHCもよく使われた。非上場でありながら創業者の株が多方面に相続されているなど異動が複雑な銘柄は「商材」になりやすい。そんななか、リクルートは14年10月に上場し未公開株ではなくなったが、今も詐欺グループに人気の「商材」であり続けるのはなぜか。

 要因のひとつには上場前、創業家から外部に一部株券が流出するトラブルがあったことが挙げられる。かつてリクルートが日本を揺るがす一大疑獄事件の震源地だったことは周知の通り。それこそ賄賂となったのは未公開株だった。疑獄後、創業者の故江副浩正氏(13年2月死去)は持ち株の大半をダイエーに売却せざるを得なくなり、一部だけは自らが設立した「江副育英会」に残した。が、公益法人による株式保有制限が厳しくなり、さらに一部のリクルート株は娘に譲渡された。ここから漂流株の物語が始まる。

 詳しい経緯は不明だが、敬子氏は04年9月、6万株を4億8000万円で「日本創研」なる会社に売却してしまった。同社はワールド創業者・畑崎廣敏氏の会社だ。その後、問題の6万株のうち3万株はのちに粉飾決算事件で罪に問われる加ト吉役員ら1社・2個人を経て06年9月、ある人物の手に渡る。しばらく後その人物は、人材関連会社大手クリスタルがグッドウィル・グループに不透明な形で高値売却されたスキームの背後で暗躍していたことで知られるようになる。

 さて、譲り受けた人物は名義書き換えを行おうとした。ところが、名義人となっていた江副育英会はなぜか拒否。両者の争いは法廷にまで持ち込まれ、09年10月に譲り受けた人物の勝訴で終わっている。しかし結局、漂流株全体がその後どうなったのかはよくわからないままだ。

 こうした後ろ暗い歴史は「秘密の非流通株が大量にある」という本来は荒唐無稽な話に信憑性を与える大きな「支援材料」となりやすい。個性の強すぎる創業者や創業家の内紛、不祥事やそれの隠蔽――。近年の事例を振り返れば、詐欺話の「人気商材」となりそうな銘柄はまだまだほかにもありそうである。くれぐれもご注意いただきたい。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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