ビジネスジェット事業といえば、実は2017年4月には日本航空(JAL)が仏大手ビジネスジェットオペレーター、ダッソー・ファルコン・サービスと提携している。まずJAL便でパリへ飛び、パリから欧州域内や中東、アフリカへビジネスジェットを飛ばすチャーターサービスを始めている。JALの広報は「売り上げなどの具体的な数字は公表していないが、お客さまからのご要望・ご関心は一定数いただいており、マーケットニーズは感じている」と話す。
ANAビジネスジェットも12月からフランクフルト経由で欧州域内のチャーター手配を開始した。欧州でもすでにビジネスジェット運航会社6社との提携が決まっている。19年度、ANAは総2階建ての超大型機エアバスA380をハワイ就航させる。ホノルルからマウイ島やハワイ島などへのアイランドホッピング(島々を渡り歩く)を楽しみたい旅行客に、ビジネスジェットのチャーター便を提供するなどの展開も目指している。
なぜ日本の経営者は利用しないのか
日本ビジネス航空協会の資料によると、15年3月末時点でアメリカには1万3000機以上のビジネスジェットがあるが、日本には85機しかない。その85機には自衛隊や自治体所有の公用機も含まれているので、個人・法人など民間で所有しているのは30機程度といわれる。
日本国内でビジネスジェットが普及しなかった理由として挙げられるのはまず、狭い国土と鉄道インフラの充実だ。ただ、国土の狭い島国で鉄道網が発達しているイギリスでも600機近く保有されている。
空港インフラ整備の遅れと発着制限も理由としてある。羽田では昼間1日8回だったビジネスジェットの発着枠を、16年春に16回に拡大した。関西空港には専用レーンができ、中部国際空港には専用ターミナルが設置されるなど、ビジネスジェットが活用される環境は整い始めている。17年のビジネスジェット発着回数は前年比18.8%増の1万5351回になった。
もちろん、ビジネスジェットのチャーターは決して安くない。例えば、1往復当たりのチャーター利用料は、羽田─香港で1400万円、羽田─ロンドンで4000万円(諸経費込みの一例)といわれる。日本の大企業は雇われ社長が多いため、「社員や株主にぜいたくしていると思われたくない」と考える経営者は多く、自分が経営の座にいるうちはできる限りコスト削減しようと考える。あまり目立つことをしたくないというのが日本人らしい本音だ。また、そもそも日本の雇われ社長に一刻を争うようなビジネス案件や商談がどれほどあるのか疑問だ。会社自体が社長ひとりですべてを決断できるような組織になっていないため、それほど時間節約の必要性に迫られていないのではないか。
ソフトバンクグループの孫正義社長や楽天の三木谷浩史社長らがビジネスジェットで世界を飛び回っているのは知られているが、ANAビジネスジェットも当面は富裕層やオーナー社長への営業活動が中心となりそうだ。
余談だが、日産のカルロス・ゴーン前会長は、羽田空港にビジネスジェットで到着したところで、待ち構えていた東京地検の検事から任意同行を求められて逮捕された。会社が費用負担する業務用ビジネスジェットを私用で使っていた疑いも出てきた。一般的なビジネスジェットのイメージが悪くならないことを祈るばかりである。
(文=横山渉/ジャーナリスト)