これに対して日系自動車メーカーの幹部は「ホンダはうまいやり方で人員削減を実行する」と解説する。約3500人が働くホンダの英国工場ホンダ・オブ・ザ・UK・マニュファクチュアリングは現在、「シビック(ハッチバック)」と「シビックタイプR」を生産している。18年は約16万台を生産したが、このうち55%は北米市場向け。もともと英国工場は収益力が弱く、ホンダのグローバル生産拠点では「お荷物的存在」。英国工場の稼働率を確保するため、グローバル市場向け「シビック・ハッチバック」を集中生産していた状況で、「いつ閉鎖してもおかしくない」(自動車担当記者)と見られていた。
ホンダは前任社長だった伊東孝紳氏が「16年度に世界販売600万台」という目標を掲げた影響から、身の丈に余る生産能力を抱えており、これがライバルと比べても低い営業利益率の原因となっている。生産能力削減による経営効率化が大きな課題となっていた。
八郷氏が社長に就任してから600万台計画の旗を降ろして軌道修正し、17年には埼玉県にある狭山工場を閉鎖し、22年度をメドに同じ埼玉県にある寄居工場に集約することを決定。ブラジルでは稼働を延期していたサンパウロ州イチラピーナ市にある四輪車生産拠点を19年から稼働したが、既存のスマレ工場では完成車の生産を取り止めてパワートレインを生産するなど、生産体制の再編を進めてきた。
ただ、大規模な解雇が発生して地域のコミュニティーを破壊しかねない工場の完全閉鎖には踏み切れないでいた。
工場の閉鎖によるイメージ悪化を回避
そこでホンダが利用したのがブレグジットだ。ホンダの英国工場周辺には、ホンダ向けが8割以上というホンダ系部品メーカーもあり、ホンダが工場を閉鎖するとサプライヤーも連鎖的に工場閉鎖や生産休止に追いやられ、この地域で失業者が急増、政府を含めてホンダに対する批判が高まるのは確実だ。
しかし、この時期にあえて発表することによって、EU離脱の影響をにおわせ「工場を閉鎖するのも仕方ない」と理解を促し、大量解雇というブランドイメージの悪化を和らげる狙いがある。ホンダは「欧州市場からの撤退は考えていない」(八郷社長)としており、英国工場の閉鎖によるイメージ悪化は避けたいところだ。しかもトップが「EU離脱が理由ではない」と断言することで、他の企業が英国撤退で追随してもホンダのせいではないことを示す。
ホンダのグローバルでの生産能力は18年度末で540万台だが、今回の英国、トルコの工場閉鎖で、21年末には510万台に削減でき、経営効率化が前進する。ブレグジットを利用するホンダのしたたかさを目の当たりにして、英国に工場を持つ自動車メーカーは呆れ顔だ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)