わが国では、これまで経済環境を反映して価格を変化させる、いわゆる「ダイナミック・プライシング(変動価格制度)」という発想はほとんどなかった。メーカーや小売業者など(供給者)が希望する価格の固定水準を設定し、消費者はそれを受け入れてきた。セール等の影響はあるが、価格は一定であることが多い。それがわが国の常識だった。
しかし今、価格に関する常識が、大きく変化している。需要の動向に応じて、価格を変化させるダイナミック・プライシングへの注目が、急速に高まっている。
大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の取り組みは、ダイナミック・プライシングを考える良い例だ。2004年に、USJは存続の危機に立たされた。その後、米大手投資銀行の下でUSJは再建を進めた。入場者数は増加傾向を維持している。その上で、さらなる収益の獲得のために、USJはダイナミック・プライシングに注目し、導入した。
冷静に考えると、ダイナミック・プライシングは、経済合理性にかなった部分がある。同時に、わが国では価格が変動することになじみが少ない。特に、人々は値上げに対して強い抵抗感を持っている。企業がダイナミック・プライシングという新しい発想を用いて成長を目指すためには、いかにして消費者などの納得感を得るかが重要だ。
ダイナミック・プライシング導入でさらなる成長目指すUSJ
USJはよくここまで経営を立て直したものだ。2001年に開業したUSJは、初年度こそ約1100万人の入場客を集め、滑り出しは好調に思われた。しかし、その後、急速にUSJの入場者数は減少した。火薬使用量の超過や期限切れ食材の使用といった不祥事の発覚が経営悪化に追い打ちをかけた。
当時、USJに行ったことのある学生によると、「テーマパークとしての活気は停滞し、なんとなく雰囲気も暗かった」とのことだ。当時のUSJは、官民からの出向者が運営を担当する“寄合所帯”だった。見方を変えれば、魅力あるテーマパークを目指し情熱を傾ける人材がいなかった。その結果、テーマパーク運営は迷走した。
2009年以降、USJは米ゴールドマンサックスの傘下に入り、再建を進めた。アトラクションの新設などが人々の心をつかみ、2013年度の入場者数は1000万人台を回復し、業績も右肩上がりの展開に回帰した。