供給者の立場からダイナミック・プライシングの効果を考えると、需要の平準化が期待できる。USJは、行楽シーズンのチケット金額を引き上げることで、過剰な需要を抑制できるだろう。それは、人手の確保や適切なサービスの水準の維持・向上に重要だ。また、平日など入場者数が少ない時に料金を引き下げることは、従来にはなかった需要の発掘につながる可能性もある。
重要なポイントは消費者の納得感
USJ以外にもスポーツ観戦や音楽コンサートなど、ダイナミック・プライシングを導入する企業は増えている。すでにサッカーJリーグに所属する横浜F・マリノスは、1試合ごとにチケット価格を変えている。具体的には、人工知能(AI)が曜日、対戦相手、チケットの売れ行き、天候などを分析し、入場者数と売り上げの極大化を目指す。この結果、入場者数と売り上げが共に増加した。ダイナミック・プライシングの効果は相応にあるようだ。
同時に、気をつけなければならないこともある。わが国では人々が、価格が変動することに慣れていない。いつも同じ席で試合を見ているのに、曜日や天気によってチケットの値段が変わるのは納得がいかないという人もいる。また、デフレ経済の下、家計は値上げへの抵抗感を強めている。
企業は、そうした心理を軽視してはならない。需給のメカニズムに応じて価格が変動することへの納得感を、消費者から得なければならない。そのためには、消費者が「どうしても使いたい」、あるいは「欲しい」と思ってしまうモノやサービスのヒットを生み出すことが欠かせない。その上で価格の引き上げが行われるのであれば、消費者の納得感を獲得することは可能だろう。反対に、企業が新しい取り組みを進めずに提供価格だけを引き上げるのであれば、客足は遠のく恐れがある。
今後のUSJの取り組みには大いに注目したい。同社は自社のテーマパーク運営にかなりの自信を持っているようだ。それだけ、アトラクションやイベントが入場者の満足感を高めることができると考えているのだろう。
5月の連休期間、USJの1日入場券は税込8,900円(12歳以上)に達する(3月25日時点)。追加的な値上げを行ったうえでも、入場者数と売り上げの増加が実現できるのであれば、同社は人々から相応の納得感を得ることができたと考えてよい。それは、わが国の企業がダイナミック・プライシングの導入を考えるための、重要なケーススタディになるはずだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)