同じ時期に、ヤマトHD社長に就いたのが山内雅喜氏だ。宅配便の生みの親である故・小倉昌男氏から直接指導を受けたのは山内氏まで。山内氏は「最後の小倉チルドレン」と評されてきたが、一方で「優等生的なところが目立った」(関係者)との声もある。人事や経営企画など経営中枢が長い山内氏を、営業の最前線を歩いてきた野武士型の長尾氏がサポートする体制といってよかった。
残業代未払い、引っ越し代金の過大請求など不祥事が相次ぐ
ヤマトHDは、ネット通販の拡大に伴う荷物量の急増や人手不足の深刻化など、大きな問題を抱えていた。ヤマト運輸社長の長尾氏は、再配送の業務を中心に担う契約社員「アンカーキャスト」の導入など、人手不足対策を進めてきた。17年には値上げを通じた宅配便の総量規制と働き方改革に踏み切った。
山内体制のもとで、21万人規模に成長したグループ経営のほころびが表面化した。グループ全体で200億円を超える未払い残業代があることが判明。対象者に未払い賃金を支給した。
18年7月、内部告発で引っ越し子会社、ヤマトホームコンビニエンス(YHC)の代金過大請求問題が発覚した。過去2年間の過大請求は約4万8000件。法人向け引っ越しの受注件数の4割を占めた。
YHC問題では、19年1月に国土交通省から行政処分や業務改善命令を受けた。全面停止している受注の再開時期も正確に示せないままだ。
その一方で、ヤマトHDの19年3月期の連結決算は、売上高に当たる営業収益は前期比5.9%増の1兆6300億円、営業利益は同87.8%増の670億円、純利益は同2倍の370億円の見込み。17年10月に荷受けを制限する「総量規制」と「値上げ」に踏み切り、収益力が高まった。
長尾氏は「現場主義の親分肌」で「厳しさを兼ね備えた人物」といわれている。とはいえ、経営のほころびは、簡単には繕えないだろう。
夕方からの宅配に特化した配達員、アンカーキャストは、20年3月までに1万人採用の目標と掲げるが、およそ半数にとどまっている。引っ越しを全面停止したYHCの受注再開が、長尾氏の新社長としての初仕事になるとみられる。
ヤマト運輸の「宅配便」は、ゴルフ便やクール便などの新しいサービスを次々に導入して業界を牽引してきた。こうしたサービスは、現場からの提案をきっかけに誕生した。現場主義の長尾氏は、お客の立場を考えて行動するヤマトのDNAを、名実ともに引き継ぐことができるのか注目される。
(文=編集部)