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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

急速なEV市場拡大は欧州の日本叩きか…携帯電話の規格競争に敗退した時と酷似

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
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急速なEV市場拡大は欧州の日本叩きか
欧州で急速に拡大するEV市場(「Getty Images」より)

 現在、自動車業界における注目のキーワードは「EV(Electric Vehicle:電気自動車)」一択といってもよい状況となっており、HV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド自動車)は、もはや時代遅れといった感さえ漂う。

 たとえば、4月13日付日本経済新聞を見ると、1面トップ記事「EV世界販売、HV超え」、2面「華流EV世界へ」、3面「EVとHV:距離や環境負荷、性能競う」、15面「ホンダ、世界でEV200万台」および「トヨタの量産EV、まず国内5000台」と、EV関連の記事が溢れかえっている。

 このなかの「EV世界販売、HV超え」の記事によると、2021年における世界のEV販売台数は前年度2.2倍の460万台に達し、HVの310万台を大きく上回っている。ちなみに、HVも前年比33%増ではあるものの、EVと比較すれば大きく見劣りしてしまう。

 各国の状況に注目すると、低価格EVを中心とする中国における販売台数が291万台、米国80万台、ドイツ34万台に対して、日本は2万台にとどまっている。

 世界各国でEVが急速に普及している要因として、一般に政府の関与が指摘される。具体的には、購入者に対する補助金の支給や免税、メーカーに対するEV販売の義務付けなど、さまざまな施策が行われている。また、米国カリフォルニア州においては、HVはゼロエミッション車の対象外となり、さらにEUによるガソリン車およびHVの販売禁止に関する規制案の検討など、EVへの追い風は今後ますます強まる状況である。

 もちろん、温暖化対策が世界全体で取り組むべき重要な課題であることは言うまでもない。しかしながら、欧州諸国を中心に進められる具体策に注目すると、排出権取引や今回のEV推進など、結局、自らの利に適う方策に終始しているように思われる。一方、日本は概ね、こうした方策により、窮地に追い込まれる場合が多い。逆を言えば、こうした大きな仕組みづくりは、日本叩きの欧州のお家芸といえるかもしれない。

 筆者はこうしたEVの動向を見ると、2005年ごろに取り組んでいた「日本の携帯電話端末と国際市場」に関する研究を思い出さずにはいられない。

 携帯電話の創成期にあたる1985年の国際市場において日本メーカーは、NEC(16%)、沖電気(15%)、パナソニック(10%)、三菱電機(5%)と、50%程度のシェアを保持していた。しかし、2G(第2世代)の通信規格競争において、日本が主導するPDCは欧州主導のGSMに実質的に敗れ、その後、急速に影響力を失い、現在に至っている。もちろん、日本メーカーの事業戦略や国際マーケティング戦略にも問題はあったものの、通信規格競争の敗退が、国際市場におけるシェアの大きな減退の主たる要因となったことは間違いない。

 つまり、一企業における商品力やマーケティング力といったポイントではなく、国家レベルでの業界標準など、大きな仕組みづくりに敗れたわけであり、今回のEVも極めて類似した匂いが漂っている。

なぜ日本メーカーはEVで世界の後塵を拝しているのか

 同2面の記事「華流EV世界へ」では、中国の地方都市である柳州市におけるEV振興のケースが紹介されている。柳州市では、補助金支給に加え、住民が企業と協力して充電スタンドを建設するモデル事業に力を入れ、結果、市内にある充電スタンドは700カ所以上にもおよび、ガソリンスタンドの190カ所を大きく上回っている。

 城山三郎氏による小説『官僚たちの夏』に登場する1960年代ごろの官僚であれば、日本においても強力なEV振興策が行われたのではないかと推測されるが、実際にはガソリン車やHV車に強みを持つ日本メーカーに配慮しながら、国際社会から批判されないレベルでの取り組みに終始してしまっている印象である。

 トヨタ自動車のトップである豊田章男氏は、以前より「カーボンニュートラルの実現にはエネルギー政策の転換が重要」といった主張を展開している。つまり、発電における再生可能エネルギー比率の低い国では、EVの二酸化炭素削減への効果は限定的であるということである。

 もちろん、自社が優位に立つHVの存在感を高めようという意図もあるだろうが、筆者は一定の合理性を感じている。しかし、こうした発言は一般には「トヨタはEVに消極的」と捉えられるケースが多いようだ。

 さらに深刻な問題は、消費者の購買行動において、必ずしも合理的な意思決定が行われるとは限らないということだ。たとえば、液晶テレビの創成期、画質の美しさといった基本性能や価格の面では、圧倒的に従来のブラウン管テレビのほうが勝っていたにもかかわらず、「箱型はもう古い、これからは薄型だ」といったムードにより、あっという間に液晶に置き換わってしまった。EVにおいても同様な事態が生じる可能性は決して否定できないであろう。

今後、日本の自動車メーカーはどうするのか

 トヨタは昨年末、「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催している。説明会において豊田章男氏は「2030年までに30車種のバッテリーEVを展開し、グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルラインでバッテリーEVをそろえる」「EVの世界販売を2030年に350万台にする」と語気を強めた。

 しかしながら、こうしたEV戦略の第一弾ともいえる「bZ4X」の初年度における国内販売目標は5000台にすぎず、しかも個人向けはトヨタが展開するサブスクリプション(定額課金)サービス「KINTO」限定での提供にとどまっている。

 EVの国際市場では、すでに米テスラのほか、欧州や中国メーカーが大きな影響力を保持している。こうしたなか、日本メーカーはどう巻き返すのか。たとえば、価格において、日本メーカーは中国メーカーに到底、太刀打ちできないだろう。

 水素と酸素の化学反応から電力を取り出すFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池自動車)ならば、トヨタに大きな技術的優位性があるようだが、果たして市場のメインストリームとすることができるのか。

 いずれにせよ、自動車産業の日本経済へのインパクトは極めて大きく、なんとか国際市場において一定の影響力を保持し続けてほしいと願うばかりである。

(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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