まず、津賀氏の側近中の側近である本間哲朗・コーポレート戦略本部経営企画グループマネージャー(GM)が本社の役員(ヒラの執行役員の呼称)に昇格、アプライアンス社(白物家電事業部門)上席副社長兼冷蔵庫事業部長に転じる。本間氏は、津賀氏が社長になる以前から部下として仕えてきた「股肱の臣」。津賀氏は「小さな本社」を目指して、本社の経理や人事などスタッフ部門の人員を削減すると同時にコーポレート戦略本部を新設、重要な本社機能をそこに移管して5人のGMに戦略的な舵取りを任せてきた。そのGMの筆頭格が本間氏である。
また、アプライアンス社は業績不振のパナソニックにとって利益が稼ぎ出せる数少ない事業部門。現在は本社の専務でもある高見和徳氏が部門トップを兼任しているが、在任期間が長くなったため、本間氏を後継含みとしてアプライアスン社に送り込む。
また、エコソリューションズ社(旧パナソニック電工)の出身者を重用したことも、今回の人事の特徴だ。同社経理センター長の佐藤基嗣氏を役員に昇格させ、本社の企画や事業創出プロジェクトなどの担当に据える。
●旧電工出身者を優遇
9月1日付人事でもコーポレート戦略本部人事戦略GMにエコソリューションズ社出身の三島茂樹氏を起用。旧松下電器産業には、創業者の松下幸之助時代から「経理社員制度」「人事社員制度」があった。本社の経理と人事の社員は別格扱いで、時には事業部に監視役として出向することもあり、徳川家康が「御三家」の動向を見張るために自分の側近を「付家老」として送り込んだことに例えられることもあった。別格扱いされてきた本社の人事戦略の実務の責任者に、関連会社で格下と見なしていた旧電工出身者を起用することも異例といえるだろう。
津賀氏は薄型テレビなどBtoC中心だった事業構造を、BtoB中心に切り替えていく経営方針を打ち出している。旧電工は住宅機器などでBtoBに強いことから、旧電工出身者が要職に起用される。ただ、津賀氏は適材適所の人材配置を目指しているとはいえ、旧電工側には、パナソニックとの経営統合を批判する声が根強いため、重用はその「懐柔策」的な面もあると見られる。13年6月、大坪文雄氏が経営責任を取って会長を辞任したが、その後任には旧電工出身で副社長だった長栄周作氏を昇任させており、その流れの人事ともいえる。
中村邦夫会長-大坪文雄社長時代に中枢を担った役員も更迭、担当替えとなった。ブランドコミュニケーション本部長として広報や宣伝を担当、これまでは潤沢な予算をバックに「社内政治力」や「マスコミへの影響力」を誇示してきた鍛冶舎巧専務は「企業スポーツ推進担当」に異動、勤務地も本社の門真市から体育館や運動場などがある枚方市に移る。来年の役員退任は濃厚と見られる。後任には竹安聡役員(現副本部長)が昇格。竹安氏も旧電工出身で、水野真紀さんらを起用したCM「きれいなお姉さんシリーズ」の仕掛人として知られる。
このほかにも、津賀氏の社長昇格と同時期に本社の企画担当となった遠山敬史常務はわずか1年3カ月でその任を外れ、渉外本部長に就いて外資ファンドに売却予定のパナソニックヘルスケア担当となる。遠山氏の企画担当への起用は、中村-大坪ラインで決められた人事であるため、津賀氏流の経営体制を早期に固めるためにも要職から外した。人事・総務などを担当してきた中川能亨常務も人事担当から外れ、後任には石井純常務が渉外本部長から移る。石井氏は企画や営業の経験が長く、特にBtoBとBtoCの両方の営業がわかる数少ない幹部人材であることから要職に起用された。
パナソニックの企業としての将来展望に課題は多いものの、津賀氏の改革は徐々に成果を出している面もある。キャッシュフロー改革などでは一定の成果も出ているほか、14年3月期決算では未定としていた配当も、中間期に5円の復配を実施することを決めた。改革を軌道に乗せるための役員人事ではあるが、一部の幹部や役員OBからは「津賀社長の改革は支持するが、側近を少し重用し過ぎではないか。第一次安倍政権のように『お友達内閣』といわれる可能性もある」との声も出始めている。
(文=井上久男/ジャーナリスト)