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売上は70分の1…なぜタミヤはレゴになれなかった?男性目線&マニア向けに固執

取材・文=文月/A4studio
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タミヤの商品(「amazon.co.jp」より)

 2020年、新型コロナウイルスの影響による「巣ごもり需要」の拡大でプラモデルの品薄が続いたことは記憶に新しい。なかでも戦艦、戦闘機のプラモデルやミニ四駆などの商品を販売する大手模型メーカー・タミヤは絶好調だった模様。20年12月27日付の朝日新聞DIGITALの記事内で、田宮俊作会長は「前年比で30%以上増えた。生産が間に合わず、世界的に商品が足りない」と急激な需要増にうれしい悲鳴をあげていた。

 そんなタミヤは1980年代末からアメリカ、香港など海外へと進出しており、出荷数はおよそ海外が半分を占めているとのこと。しかし、逆にいえば需要の半数は日本国内というわけで、依然として国内向けの玩具メーカーというイメージを抱いている方も多いのではないだろうか。

 一方、そんな玩具メーカーのグローバル展開の成功事例で思い浮かぶのが、タミヤと同じくプラスチック製の商品であるレゴブロックでお馴染みのデンマークの玩具メーカー・レゴだ。レゴは、1968年にデンマークにレゴランドを開設し、イギリス、アメリカ合衆国、ドイツにも開設、途中で経営権は変わったがアメリカ、イギリス、ドイツ、マレーシア、アラブ首長国連邦、韓国、日本の8か国、10ヶ所にも及ぶ。今や世界中に商品展開を行っており、昨今は中国で急成長を遂げている。今年上半期に中国国内に新たに46店舗をオープン、下半期も出店を続け、通年で計80店舗を開店する予定だという。現在、レゴ専門店は世界に833店舗あるが、4割以上の約360店舗が成長市場の中国に集まっており、さらなる市場拡大を見込んでいるようである。

 建築材の加工販売がスタートだったタミヤが模型専業メーカーとなったのが1953年。レゴがプラスチック製の玩具開発を開始したのが1949年。現在まで続く企業のアイデンティティが生まれたのは同時代ながら、その後の展開はまるで異なっている。2021年の両社の売上高は、タミヤが約139億円、レゴが約9730億円と約70倍もの差が出ているほどだ。

 もちろん単純比較できるものではないが、共通点も多い両社はどうしてここまで差がついてしまったのだろうか。今回は国際教育評論家の村田学氏に、なぜタミヤはレゴのような規模でグローバル展開できなかったのか、経営分析をしてもらった。

両社の差をつけた設計思想の違い

 同じプラスチック製の玩具を取り扱うタミヤとレゴだが、この両社の違いは販売している商品の特性、顧客層から確認できるという。

「商品の設計思想がそれぞれクリエイティブな面とエンジニアリングな面から出発しているのが2社の大きな違いでしょう。レゴブロックは、カラフルなブロックを組み合わせたり、積み上げたりすることで自分の思うような建築物、キャラクターなどの立体を作れるよう設計されていますよね。『何を作るのか?』という0から1を作り上げる思想を商品から感じますし、何より老若男女問わず想像力を働かせて、クリエイティブな遊び方ができるようになっているんです。

 対してタミヤの商品は、趣味でホビーを楽しむマニアックな層に向けて作られています。基本的にタミヤのプラモデル、模型はキットを取り外して組み立てていきますが、完成までの工程はひとつのアートとして高めていくような、エンジニア的な醍醐味がある作業です。ミニ四駆のようなカスタマイズして速さを競う商品も、『どれだけ速く走らせることができるか?』というエンジニア的な考え方で楽しむ方が多いでしょう。

 こうしたものづくりに対する考え方、商品の特性の違いによって、タミヤはこだわりの強いファンからは熱狂的に支持されているものの、レゴの商品は全世代から受けいれられて、なおかつわかりやすい玩具になり得たのではないでしょうか」(村田氏)

 創造性を重視するレゴと職人的な意匠を凝らすタミヤ。ものづくりの考え方を吟味するだけでも両社の方向性はまるで異なることがわかる。

「またレゴは『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』『マーベル』などの映画シリーズとコラボした商品も多数展開しています。ブロックを使って映画の世界を自分の手でシミュレーションできるような感覚に没入できるわけです。しかも映画がヒットすれば、商品の売上も伸びていくので、消費者の創作性と自社の業績のどちらも担保できる戦略となっているんです。

 しかしタミヤのほうは、宮大工が外に出ないような職人気質の強い企業風土となっているのか、映画やアニメと積極的にコラボしていないんです。自社製品のイメージを映画やアニメといった他作品の世界観で固められたくないということなのかもしれません。

 実はレゴも以前はこのジレンマを抱えていたのですが、1990年代終わりに業績が悪化したことをきっかけに地道にコラボ商品を展開していくようにした結果、小中高生を中心にお客を定着させることに成功しました。タミヤは他社・他作品とのコラボレーションといった流行に乗り遅れたことが、レゴと差が開いてしまった一因だと考えています」(同)

キーワードとなるのは「教育」「多様性」

 レゴが世界展開に成功した要素として、教育的な文脈で採り入れられたことも大きいという。

「レゴは玩具の範囲を越えて、教育やビジネスの現場でも応用されています。1歳半から遊べる『デュプロ』という幼児向けのブロックは知育玩具として認知されていますし、レゴブロックが小学校で教材として採り入れられることもあります。一方、たとえばレゴブロックを使って行われるワークショップ『レゴシリアスプレイ』は企業研修などでも採用されていますし、会議で可視化しにくい商品のアイデアを考える際やプレゼンする際にレゴブロックが使われることもあり、多くの企業で導入実績があるんです。また、東大のレゴサークル『東大レゴ部』などの宣伝効果もあったでしょう。

 こうして多角的に『レゴは教育やビジネスの場で活躍』というPR活動に勤しんだ結果、子育て世代をはじめとした多くの世代に、ただのおもちゃにとどまらない価値ある商品として認知されていったのではないでしょうか。

 もちろんタミヤも、模型づくりをとおして芸術的な感性を鍛えられるという方向性で、レゴのように教育やビジネスの場に訴求していくこともできたはず。もっとも戦艦、戦闘機のプラモデルとなると、軍国主義的なものが連想されて、レゴよりはハードルが高かったかもしれませんが、可能性は十分あったと思います」(同)

 またタミヤは商品のラインナップ的にも、世相からワンステップ遅れていると村田氏は指摘する。

「タミヤの商品は、基本的に男性目線のものが多く、多様性のあるラインナップとはいえません。おままごとが好きな女の子が好みそうな家、人形のプラモデルも販売できるはずなのに販売する気配はないですね。対してレゴはディズニーの『アナと雪の女王』や『バービー人形』とのコラボ商品を出しており、女性ニーズも掴んでいます。北欧らしいダイバーシティ的な発想に富んだレゴとは違い、タミヤはマーケティング的にも企業風土的にも従来の顧客層から離れられず、世の中の動きから取り残されてしまっていると考えられます」(同)

 巣ごもり需要によって商品の出荷数は急増したようだが、それが途切れた後、タミヤはどのようにたたかっていくべきなのか。

「タミヤは模型、プラモデルづくりが好きな層に対して商売をしてきましたが、そこから脱却してレゴのようにジェンダーバランスのとれた商品展開を行っていけば、今からでもグローバル企業になることも夢ではありません。またプラスチックを扱う企業ですので、SDGsに配慮したエコな取り組みを大々的に発信していくことも重要でしょう。いずれにせよ模型、プラモデルファンは高齢化が顕著ですので、若年層、女性層をいかに獲得できるかが今後のタミヤの課題となるでしょうね」(同)

 日本が誇る玩具メーカーであるタミヤ。高い技術力を活かしつつ、新たな戦略、顧客層の獲得を図り、レゴのように大規模に世界展開する未来を見てみたい。

(取材・文=文月/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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