主にゲーム用に使われるトレーディングカード(以下、トレカ)。競技としても盛り上がっているが、近年は希少なカードが高値で取引されることが多く、高騰化している。昨年6月にはYouTuberのヒカルがヤフオクで『デュエル・マスターズ』初期版の未開封カートンを500万円で落札したことが話題に。同年8月には、同じくYouTuberのヒカキンが1枚約5000万円の超激レアポケモンカードを中古カードショップから購入した動画も注目を集めた。
もはやトレカは単なるゲームやコレクションをするものから投機用の資産と様変わりしており、多くのトレカ投資家が誕生するほどの市場に発展している。いったいなぜこれほど高騰化するようになったのか。『世界一簡単なカードゲーム販売の教科書』の著者である後藤寛氏に聞いた。
高騰化はトレカのブランド化現象が契機に
トレカの始まりは1993年にアメリカで発売された『マジック・ザ・ギャザリング(MTG)』とされ、90年代後半には日本語版も販売された。その後、国内からも96年に『ポケットモンスターカードゲーム(以下、ポケカ)』が発売、99年には『遊戯王』のトレカが登場、一躍ブームを巻き起こした。
「2000年代前半にはこれらのトレカブームは収まっていきましたが、熱心なプレイヤーが残って競技を続けていたので、カードの出荷も続いていました。そんな状況が大きく変わったのは、10年代後半くらい。『遊戯王』や『ポケモン』のカードゲームがそれぞれ20周年を迎えて話題となり、それに伴ってトレカの存在が“定番ブランド”化したんです」(後藤氏)
ブームが去ったトレカのプレイヤーが最も恐れるのは「サ終」(サービス終了)と呼ばれる、メーカーが販売を取りやめてしまうこと。シリーズが終了して、大会などが開かれないと、今まで集めてきたカードがただの紙切れになってしまう。しかし、販売開始から20年の壁を超えたことで、「盤石な地位を確立したトレカが今後サ終することはないだろう」と、プレイヤーに安心感を与える機会になったのだという。
「同時に、20年を超えれば世代を超えて愛されるブランドになっているということなので、コレクターも多く、中古市場も安定すると、投資家たちがトレカに熱視線を送るようになりました。時期的にも、メリカリやヤフオクといったフリマサイトに誰もがアクセスしやすい環境が整っていたことも大きく、需要が一気に高まって取引価格も高騰。20年前は1000円以下で中古カードショップに並んでいたカードが、今では数十万で取引されていることもざらにあります」(同)
特に高値で取引されるのは、大会の上位入賞者がもらえる限定カードやレアカードなど希少性の高いもの。ただ、流通量が多くても、かわいいキャラクターが描かれたカードや、ゲームをするときに使いやすくて強いカードも安定して人気が高いという。
「今はトレカ投資に走る人が爆発的に増えたので需要過多気味ですが、最近はメーカー側も供給量を増やしているので、価格の落ち着きが見られるカードも一部出ています。しかし、ここまで市場が拡大すると、突然大崩落するようなこともまずありえないので、長期的な目でみれば安定した投資ができるはずです。狙い目はやっぱり『周年』ですね。各ブランドは5年ごとに周年記念カードを出すのですが、これは確実に需要があるので、カートンごと購入して、絶版になるまで数年ほど寝かせるなど、希少性を高めてから売れば、ほぼ確実に利益が出ます。今カードショップで数百円で買えるレベルのカードでも、10年後には高値になっている可能性も十分あります」(同)
偽造カードや脱税トラブルのリスクも
だが、ヒカキンが購入したような数千万円レベルのカードが取引されるようになると、それに関連したトラブルも増えつつあるのも事実だ。昨年11月末には大阪のカードショップに空き巣が入り、高額なポケモンカードが軒並み盗難される事件が起きているほか、今年1月にも東京・秋葉原でオープンから間もないポケカ専門店が店内のほとんどのカードを奪われる窃盗事件が発生している。
「数百万から数千万円の価値があるトレカは、言ってしまえば宝石や高級時計と同じ。セキュリティの面でも同じレベルの取り扱いをすべきでしょう。実際、中古カードショップでも店頭にはカードのコピー品を並べ、購入希望者には現物を金庫から取り出して受け渡すといった対策をする店が増えています」(同)
トレカ市場拡大に目をつけた悪事はこれだけではない。昨年12月には、人気アニメのトレカ販売を手がける会社の元代表が、遊戯王やポケモンカードの1枚数十万円の高額で取引されるレアカードを数多く仕入れたように装う手口を使い、所得税など約4500万円を脱税していたニュースもあった。
「脱税トラブルには個人レベルでも注意が必要です。トレカ売買は中古品の取引になるため、本来は古物商免許の取得が必要になります。少額ならまだしも、数百万レベルの取引だと、市場の拡大に伴って厳しく取り締まられていく可能性もあるでしょう」(同)
さらに、最近は本物同然の偽造カードも流通している。また、空売りや取引詐欺なども増加しており、被害者も続出しているという。
「フリマサイトには本物のカードの写真を載せているのに、届いた現物が違うカードだった詐欺行為もよく耳にしますね。こうした詐欺まがいのトラブルを防ぐには、トレカの真贋鑑定を行えるPSA、BGSといったサービスの活用が有効です。いずれの鑑定も海外で行われるため一定のコストはかかるものの(PSAは年内に国内サービスを開始する見通し)、今後トレカ販売に伴うトラブルが増えていきかねないことを考えると、取引の安心材料として重宝されていくと見込まれます」(同)
すでに市場が成熟し、現物の取引だけでなく周辺の産業も活気づいてきているトレカ投資の世界。それだけで生計を立てられるほどの可能性に満ちているが、トラブルには十分な注意が必要なようだ。