8月22日、三菱航空機はMRJ開発再延期を発表した。同社の川井昭陽社長は今年6月に開催されたパリの国際航空ショーで「年内の初飛行に向けて取り組んでいる」とアピールしていたため、波紋が内外に広がったのは当然だ。
今回の再延期の背景を探ってゆくと、三菱航内におけるプロジェクト管理能力不足という内情が浮かび上がってきた。開発プロジェクト関係者の間には「傷が浅いうちに撤退すべきだ」との声すら上がっている。
まず、再延期までに至る経緯を簡単におさらいしておこう。MRJは、三菱重工業が独立行政法人のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から2003年に助成事業者に選定され、研究・開発を進めてきた小型ジェット旅客機。座席数が70前後と90前後の2種類があり、1時間から4時間程度の飛行時間を想定している。
米プラット&ホイットニー社の最新鋭ジェットエンジンを採用、さらに主翼、胴体など機体構造部の約30%に炭素繊維複合材を採用して軽量化、設計上は燃費性能を従来機比で約20%向上させているのがセールスポイントだ。
開発に成功すれば、採算が取れず1973年に製造中止に追い込まれた戦後初の国産旅客機・YS-11以来の「日の丸旅客機誕生」になる。経産省が「国産化はこれが最後のチャンス」と、機体開発費約1500億円の3分の1弱を国費で補助している国策プロジェクトでもある。
三菱重がMRJの事業化を発表したのは08年3月。MRJの事業子会社として三菱航の設立も同時に発表した。同社資本金1000億円のうち三菱重が約64%を出資、残りをトヨタ自動車、三菱商事、三井物産など9社が出資した。
当初の計画では、初飛行を11年、初号機納入を13年と見積もっていたが、その後、3度も開発延期を発表している。
最初は09年9月。胴体寸法や主翼素材など基本設計の変更に伴い、初号機の納入が13年から14年1-3月にずれ込むと発表。理由は「MRJの受注獲得には、客室スペースや貨物室スペースの拡大が不可欠と判断」されたためだった。この時、海外航空機メーカー関係者からは、基本設計の詰めの甘さを指摘する声が上がった。
2回目は12年4月。初飛行を12年4-6月から13年10-12月へ、初号機納入を14年1-3月から15年夏頃へ遅らせると発表。理由は「製造工程の見直しと確認、開発段階での各種技術検討にそれぞれ想定を上回る時間を要している」というものだった。この時は、国内の航空会社関係者から開発計画の甘さを指摘された。そして、今年8月の開発延期発表へと続いている。
●YS-11の二の舞いになる懸念も
3度にわたる開発延期は、MRJ事業化にどんな悪影響を及ぼすのだろうか?
例えば、経営コンサルタントの大前研一氏は9月2日付「nikkei BPnet」記事で次のような指摘をしている。
「航空機は典型的な労働集約的組立産業。習熟曲線において累積生産が倍増するごとに生産コストが10-15%下がる傾向がある。したがって、損益分岐するためには最低でも500機ぐらいは生産しないといけない場合が多い。つまり、納期の遅れは習熟曲線に取り組むタイミングの遅れを意味し、戦略的には非常に不利となる」(記事『三菱の小型旅客機「MRJ」、再三の納入延期で離陸できるのか』)。