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初の国産ジェットMRJ相次ぐ開発延期、なぜプロジェクト迷走?国の審査、海外との調整…

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 大前氏が指摘する損益分岐に必要な500機に対し、再延期発表時の受注機数は325機。このうち受注確定はたったの165機で、残りはキャンセルもありの追加発注予定機だ。500機にはほど遠い受注確定しかできていない。大前氏も「これだけ納期が遅れてしまうと、追加発注予定分はキャンセルになる可能性が高い」(同)と警告している。プロジェクト関係者が「YS-11の二の舞いになる」と危惧しているゆえんだ。

 MRJ開発プロジェクトに、三菱重工業は航空宇宙部門から約700名の技術者を投入。機体開発費だけで1500億円、諸々合わせた総開発費は2000億円近くに上る。「日の丸重工」の威信と社運を賭けた構えを示している。

●国の審査で膨大な作業が発生

「民間機の開発経験がなかったのが大きな理由」。今年8月、開発の再延期を発表した記者会見で三菱航の川井社長はそう弁明した。同社によると、MRJの機体開発は計画通り順調に進んでいる。開発が遅れているのは、機体を稼働させる電源、油圧、航空機向け電子システムなどの各種装備品。

 これらの部品数は約100万点に達し、うち約70%が海外部品メーカーからの調達。主な調達先だけでも国内外で数十社に上り、この部品メーカーとの調整に予想外の手間がかかり、開発が遅れているのだという。

 中でも開発遅れを決定づけたのが、旅客機の量産化に必要な「型式証明」取得作業。旅客機開発を進めるには、部品個々の安全性を検証し、それを組み合わせたコンポーネントの安全性を検証し、さらに機体に組み立てた後の安全性も検証しなければならない。
そのためには、部品やコンポーネントの設計から製造までのあらゆるプロセスを記録し、その記録文書を国交省や各国の関係省庁に提出し、審査を受けなければならない。

 この型式証明の取得基準がまた煩雑で、作業量が膨大なものとなっているのだ。取得基準には飛行、強度、設計・構造など分野ごとに数十項目あり、全部で約400項目もある。航空機メーカーは項目ごとに安全性検証データを揃え、基準をクリアしている事実を自ら証明しなければならない。この証明作業は開発と同時並行で進めなければならず、「1項目の安全性証明をするための記録文書が数百ページに上るのは珍しくない」(国交省関係者)という。「機体の開発作業より、安全性証明のデータ作成作業に追い回されている」と、プロジェクト関係者が悲鳴を上げているのもうなずける。

 それだけではない。この安全性証明データを作成するためには、数十社に上る部品メーカーとの間で安全性の仕様を開発前に詰めておかなければならない。「開発当初はその手順がわからず部品メーカーに丸投げし、これが混乱を拡大した」と、プロジェクト関係者は秘かに打ち明ける。

 しかし、開発遅れは航空機メーカーにつきもの。直近の例でも米ボーイング社の最新鋭旅客機・B787は、当初は初号機を08年5月に納入する予定だったが、11年9月にANAへ初号機を納入するまで7回も納入を延期している。

 このMRJとB787の開発遅れについて業界関係者は「別次元の話」だといい、「かねてから心配していたことが現実になった」と顔を曇らせる。

●海外部品メーカーとの「主客転倒」

 もとより三菱重は航空機作りの素人ではない。戦前は名戦闘機・ゼロ戦を開発し、現在もわが国を代表する航空機メーカーとして知られている。だが、その実態はボーイング社など航空機組立メーカーへの部品開発・製造をしている下請けメーカーであり、自衛隊機の場合も防衛省の設計仕様書通りに製造しているので、下請けメーカーに変わりはない。

 したがって、自社で中長期的な開発計画を立て、海外の航空会社などへ完成機を納入する航空機組立メーカーとしてのノウハウは乏しい。よって、旅客機開発のプロジェクト管理能力が蓄積されていなかったというのが、まさに前出の関係者が指摘した「かねてから心配していたこと」なのだ。

 MRJの主要部品調達先は自己主張の強い海外メーカー勢で、自社のミスを発注先へ責任転嫁してくるケースも珍しくない。国内勢と異なり、三菱重の言いなりに動く相手ではないのだ。にもかかわらず三菱重は、「国内部品メーカーと同じように、彼らも自分たちの思い通りの部品をつくると錯覚していた」(三菱重OB)。つまり、同社初の旅客機開発という未経験の作業の中でもたついているうちに、足元を見られ、発注者と受注者の「主客転倒」が起こっているのに、同社はそれを認識できていなかったというのだ。

 一方の三菱重社内の問題として、同社OBは「社内は東大卒の天下で、非東大卒は何か問題が生じても上に相談も報告もしにくい風通しの悪さがある。この体質がそのまま開発プロジェクトにも持ち込まれ、情報共有を阻害しているのではないか」との見方を示す。

 こうした内情を知る業界関係者は、再三にわたる開発延期の理由について「技術的な問題ではなく、三菱重のプロジェクト管理能力不足にあることは明白」と話す。

 座席数100席以下の小型旅客機市場はボンバルディア(カナダ)とエンブラエル(ブラジル)の寡占状態。そこへ軍用機メーカーのスホーイ(ロシア)が11年から進出。中国メーカーも進出に向け、08年に試作機の初飛行を終えている。三菱重はこれら新参の最後発。無理押しで進出しても、苦戦は必至との見方も強い。

 三菱航の川井社長が、メディアの取材を受けるたびに「MRJ受注1000機」を公言しているが、業界関係者は「それを真に受けている海外航空機メーカーは1社もない。みんなジョークだと思っている」と打ち明ける。
 
 果たして初の国産小型ジェット旅客機が、晴れて空を飛ぶ日は来るのか? 国内外の航空業界関係者の注目が集まっている。
(文=福井晋/フリーライター)

BusinessJournal編集部

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