2020年にオリンピックが東京で開催されることになった。その招致の決め手になったとも言われているのが、国際オリンピック委員会(IOC)総会におけるプレゼンで滝川クリステルさんが行った「お・も・て・な・し」のパフォーマンスだ。まだ先の話だが、日本の良さを海外に知ってもらう絶好の機会にしたいものである。日本人のきめ細やかな心遣いをもとに、日本のサービス業がもっと海外に展開すべきではないだろうか。
一方、サービス業に関わる不安材料もある。例えば外食業界では、名ばかり店長の過労死の問題、アルバイト店員によるSNSへの非常識な投稿問題といった悪いニュースが目につく。本社や本部が、厳しく指導して監視するだけでは問題の解決にはならない。問題の根っこには、店舗内での店長や社員とアルバイト店員との関係、店舗と本部の関係が大きく影響しているからだ。チェーン全体が1つになるような抜本的な打ち手が必要なのである。
今回は、サービス業が真の顧客満足を目指していくための第一歩として、顧客満足向上の取り組みについて、その落とし穴や、あるべき方向性を考える。
「顧客満足No.1」というフレーズを耳にすることがある。利用客への満足度調査の結果に基づき、サービス向上に取り組んでいる企業は多いが、実は、その取り組みには落とし穴が3つある。気をつけないと、顧客満足とは真逆の方向に進んでしまうこともある。
(1)落とし穴1:顧客満足調査の質問内容において、顧客の視点よりも企業の視点が強い
飲食店のテーブルでよく見かけるアンケート票も、ちょっとした顧客満足調査だ。このアンケートの質問で違和感を覚えたことはないだろうか? よくある質問は、「店員の挨拶はいかがでしたか」「料理の提供時間はいかがでしたか」「料理の味はいかがでしたか」「料理の量はいかがでしたか」「店員の気配りはいかがでしたか」「店内の雰囲気はいかがでしたか」といったものだ。
筆者が違和感を覚えるのは、「そんなことは、客の態度をよく見ていればわかる」と思えるからだ。では、なぜこのような質問になるのか。それは、これらの質問の主語を考えるとわかる。ほとんどの質問の主語は、店側なのである。顧客側を主語とした質問文は次のようなものだ。「ゆっくりお食事を楽しめましたか」「お昼休みにリフレッシュできましたか」「不快な思いをしませんでしたか」。このような質問をして、理由も併せて聞くことで、有効な情報が得られる。
顧客満足調査の歴史が長い、自動車ディーラーの例も紹介しよう。新車を購入したあとに送付されてくる「初期の顧客満足調査」というアンケートがある。筆者が以前新車を購入した際に、質問が50問近いアンケートが送られてきた。そのうち顧客が主語となっている質問は、たったの5つ、全体の1割に過ぎなかった。顧客側が主語の質問は、「店舗は利用しやすく快適でしたか」「全体的な満足度はいかがでしたか」「今後、点検・車検・修理で当社を利用したいですか」「次回、車を購入する際も当社から購入したいですか」「知り合いが車を購入する際に当社を紹介しますか」といった内容である。
これらの質問も、もう少し踏み込みたいところだ。自動車を検討、購入していく過程を考えると、「お車をどのように利用するか考えることができましたか」「他メーカーや中古車も含めて、候補を検討できましたか」「注文してから車を入手するまでの手続きは煩わしくなかったですか」といった質問も考えられる。