顧客満足調査に意味がないということではない。顧客満足調査で上位となった店舗は、顧客満足が高いのは事実である。複数の店舗に順位をつけるためには有効だ。しかし、真の顧客満足を目指すためには、調査結果の中身を慎重に解釈すべきである。
例えば、ある自動車ディーラーの店舗と担当者に、大変満足しているお客がいたとしよう。もし担当者がこのお客に対し必要な説明を怠っていた場合、「サポート体制を十分説明してくれたか」「車の点検スケジュールについて十分説明してくれたか」といった店舗側が主語の質問に対して、そのお客は悪い評価をつけるだろうか。私なら悪い評価はしない。逆にお客が強い不満を持っている場合には、実際よりも悪い評価をつけてしまうこともある。
つまり、不満の原因が、評価の低かった質問項目に関係しているとは限らないのである。項目にないことが、不満の真の原因であることもあるのだ。実際の店舗の状況をみて、どの項目を改善すべきかを見極める必要がある。
(3)落とし穴3:調査結果を突き付けて改善を強要すると、企業視点がますます強まる
最後の落とし穴は、調査結果をもとにした本社や本部による改善促進である。複数の店舗を管理するスーパーバイザーやエリアマネージャーが、評価の低かった項目を指摘して指導することが多い。
ここで大きく2つの反応が出る。その結果を前向きに捉えるか、後ろ向きに捉えるかである。その反応の違いは、業績の高さにも関係するが、店長をリーダーとした店舗のチーム状態がどれだけ良好かによっても変わる。飲食業界では、店舗が活性化されると生産性が上がり、業績が2割くらいは上がるとさえいわれている。
店舗のチーム状態が良くない場合、店長とメンバーの信頼関係も思わしくない。従って、店長が評価結果をメンバーに伝え、業務の改善を促せない。特にアルバイト店員の多い飲食などの業種では、店長への反発などが起きやすい。先に挙げた店長の残業問題などは、本部による締め付けの強さも影響していることも珍しくない。店長は店舗の業績や各種チェックを重圧として感じ、チームワークの向上やメンバーへの配慮もできず、孤立してしまうことがある。
大切なことは、店舗内面から変えない限り、真の顧客志向につながらないということだ。調査結果をもとにギャップを無理やり埋めるのではなく、店舗の意思を引き出すようなアプローチが必要なのである。
●経営理念を軸として、性善説で店舗の強化に取り組むことが大切
真の顧客満足を目指すためには、店舗で働く人々自身でお客様に対するサービスを振り返り、改善をしていく必要がある。つまり、本社や本部による他者評価ではなく、店舗による自己評価である。店舗数が多くなるにつれて、店舗を評価して、悪い店舗をなんとか改善させようという思考が強くなる。しかし、間違えてしまうと減点主義が強まり、性悪説の下で店舗に接してしまうことになる。そうなることにより、店舗が顧客のほうを向かなくなる。
「客の心を心とせよ」。ダスキンの主力事業の1つであり、全国に約1400店を展開するミスタードーナツの事業理念である。大手企業ほど、このようなしっかりした理念の下で全社が一丸となり、店長やスタッフを信じたマネジメントを行うことが、お客に真のサービスを提供するためには大切なのである。●大國仁(おおくに・じん)
東京工業大学大学院修了後、三菱自動車工業でマーケティング戦略策定や新型車の立ち上げに関わる。戦略系コンサルティング会社のジェミニ・コンサルティング(現ブーズ・アンド・カンパニー)などを経て、2002年11月ジェネックスパートナーズの設立に参画。大手サービス業や自動車メーカーなどに対して、シックスシグマ・ウェイを活用した全社変革支援を経験して独立。学生時代はファミリーレストランで5年間アルバイトとして働いた経験を持ち、業績の良い店舗と悪い店舗で働く従業員や店舗を運営する店長の違いについての実体験をもつ。
●株式会社ACWパートナーズ(http://www.acwp.jp)
企業の永続的な成長を、パートナーとして支援する経営コンサルティング会社。社員の方々が自律的に動き、組織として成功体験を積みながら、自社独自のウェイを強めていくための各種サービスを提供する。