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幸楽苑、中華そば290→490円…店舗訪問でみえた100店舗減・経営危機の原因

文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト
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幸楽苑「冷し中華ギョーザセット」(撮影=重盛高雄)

 ラーメンチェーン「幸楽苑」が苦境に立たされている。かつては290円(税抜)の「中華そば」をはじめ低価格メニューを武器に店舗を拡大させていたが、2021~23年3月期は3期連続で営業赤字となり、23年3月期決算資料には「継続企業の前提に関する重要事象」が記され、直近4年で店舗数は約100店も減少。経営危機が指摘される状況となっているが、「庶民の味方」幸楽苑に何が起きているのか――。店舗での実食レポートも交えて専門家に解説してもらう。

 幸楽苑の歴史は長い。1954年に前身となる食堂が現在の福島県会津若松市にオープンし、店名を幸楽苑に変えた後は徐々に県外に店舗網を広げ、2000年には東京に進出。現在は持ち株会社・幸楽苑ホールディングス(HD)傘下に幸楽苑を擁する形態となり、東京証券取引所プライム市場に上場するれっきとした大企業だ。

 幸楽苑のウリといえば低価格という手軽さだ。290円という破格の「中華そば」が集客の要となってきたが、現在では490円(税込、以下同)に値上がり。原材料価格やエネルギーコストの上昇で外食チェーン各社が値上げに動くなか、幸楽苑もここ数年で複数回にわたり価格改定を実施。「チャーシューめん」は760円、「冷し中華」は760円、「味噌野菜たんめん」は730円、「背脂牛肉つけめん」は790円、餃子とカレーライスのセット「カレーセット」は500円となっている。

 そして19年時点では全国に約500店あった店舗も徐々に減り、現在は416店に(7月24日現在)。さらに来年3月末までに約30店舗を閉店する方針を決めており、「からあげ家」や「餃子の味よし」など新業態の店舗を展開したり、「からやま」や「焼肉ライク」など他社が運営するチェーンのフランチャイズ事業を行うなど、生き残り策を模索している。

 前述のとおり業績が低迷する幸楽苑を尻目に、同じラーメンチェーンで競合相手である「熱烈中華食堂 日高屋」はコロナ禍による苦境を脱しつつある。運営元のハイデイ日高の23年2月期決算の売上高は382億円(対前期比44.6%増)、営業利益は6億円(前期は35億円の赤字)となっている。

「幸楽苑と日高屋は店舗数では同規模だが、青森から兵庫まで広い範囲にまたがって店舗を展開する幸楽苑とは対照的に、日高屋は関東にしか店舗を展開していない。たとえば東京都内の店舗数を比較すると、日高屋は190なのに対し、幸楽苑は29。特に両者のような低価格路線のチェーンでは特定のエリアに集中的に店舗を出店することによる経営効率の向上が不可欠であり、幸楽苑のように各県に飛び飛びで少数の店舗を展開していては利益は出にくい。結果的にメニュー価格の上昇につながり、『中華そば』を比べても日高屋が390円なのに対し幸楽苑は490円と100円も高くなっている。また、日高屋は効率経営でコストを下げることで、ラーメン類以外のサイドメニューの数も増やすことができ、幸楽苑と比べてメニューがバラエティー豊富になっている」(外食チェーン関係者)

 幸楽苑の不振の要因について、フードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらった。

感じられない「幸楽苑ならでは」の味

 お昼時に幸楽苑のある店舗を訪問し「中華そばチャーハンセット」(790円)を注文した。暑い日だったためか冷房が強いため寒く感じた。以前に訪問した際から味は変わっておらず、チャーハンも冷房のせいで食べ終わる前に冷めてしまった。近隣に店舗がなければ車でわざわざ足を運ぶほどの味でもない。

 別の店舗も訪問したが、こちらもとても冷房が効きすぎて寒かった。席に着くと店員さんが「冷やし中華」と「背脂牛肉つけめん」を紹介してくれた。これが今の一押しなのだろう。「冷し中華ギョーザセット」(960円)を注文したが、餃子も同店でなければ食べることができないというほどの味わいは感じられなかった。こちらも冷房が強すぎて食べている途中で餃子が冷たくなってしまった。冷やし中華も幸楽苑ならではの味わいという印象は感じられず、出汁の味も一般的であり、何らの個性を感じさせる味わいではない。

 例えば日高屋には「野菜たっぷりタンメン」(570円)など、このチェーンでなければ食べることのできない味が存在する。餃子の王将も新コンセプト店「GYOZA OHSHO」の展開や店舗別オリジナルメニューの提供などにより、客に新しい刺激を与える努力をしている。

 幸楽苑の動向として注目されるのは、東京・渋谷にある新業態店「餃子の味よし」だ。幸楽苑から業態転換した店舗だが、「日高屋のちょい飲み」ほどのインパクトはないものの、スパークリングワインなどアルコールの種類を増やすことで、お客に食とアルコールの組み合わせを提案している。まだまだ手探りの状態だが、とてもうれしい試みと感じる。

 幸楽苑HDでは今年、相談役に退いていた創業者の新井田伝氏が会長兼社長に復帰し、23年3月期決算説明会の資料には「創業者精神の再注入を行う」と書かれているが、それよりもお客に選ばれる商品やサービスを提供できるか、幸楽苑でなければ味わうことのできない商品を提供できるかどうかのほうが、幸楽苑の将来にとっては重要なのではないか。

(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)

重盛高雄/フードアナリスト

重盛高雄/フードアナリスト

ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年はThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。他にもBSスカパー「モノクラーベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にwebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。
フードアナリスト・プロモーション株式会社 重盛高雄プロフィール

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